俺と君と私と

□02.俺、さ。嘘つかれるのが一番嫌いなんだよね
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私は転入してきた次の日が休みだったから、青学にいた。

私の親友の不二周助と、コートを隔てて立つ。

「クス。今日は男装してないんだ。
見てみたかったのにな、名前の男装」

「五月蝿い!
だってどうせおr…私の男装見て大笑いする予定だったでしょ!
周助の笑いって、なんか心にささる!」

「あ、今【俺】と言おうとして慌てて【私】と言い直した。
慣れてきたんだ。面白いね」

と言って笑う周助。

あー、なんか恥ずかしい。

顔に血がのぼっていくのを感じる。

「フフ、顔真っ赤。さぁ、試合やろうか?」

「絶対フルボッコにしてやるもんね!!」

そうして試合が始まった。

私のスマッシュを羆おとしで返されたり、ぎゃくに周助のツバメ返しを、同じツバメ返しで返したり。

試合はなかなかいい勝負だった。

でも……

「あー、負けた。
何故かいつもギリギリで周助に勝てないんだよねー」

久しぶりに周助に、テニスに付き合ってもらったわけだが、

やっぱり勝てなかった。

「まあ、それは"あるもの"が名前のテニスに足りてないからじゃないからかな?」

「ん?足りないもの?なに、それ?」

私が聞くと、周助は私の唇に指を当てて言った。

「それは自分で見つけないと意味ないんだ。

それに…」

こうやって唇に指を当ててるときの周助の顔は、いつもより近くて…イタズラっぽい顔をしてるけど、

どこか真剣さがあって…。

不思議な感覚に陥っていた私は気が付かなかった。

すぐ横に…

「あれ?不二と……苗字さん?」

幸村がいたことを。











一瞬の思考停止。

そのあと、波のように思考が流れてきた。

今の服装は女の子って感じのテニスウェアで性別バレるってか良くない誤解がおこる可能性もあってってかなんでここに幸村君がいるのってか…(ry



「うぁぁああああ!!」

頭が出した決断はこれ。

Let's 逃走!

さぁ、走りました私。

「逃げ足だけは自信あるんd…」

振り替えると、なにげついて来ている周助と…幸村君。

地獄絵図だよ、絶対。

「周助はおいといて、なんで幸村君までくるの!?」

私が後ろに叫べばかえってきた返事は

「逃げられると追い掛けたくなるんだ」

ドSめ。

走り回っていても状況は打開しないし、

すくなくとも男より体力のない女の私に勝ち目はないと思い、走るのを止まる。

2人も私の前で笑顔で止まる。

「まず周助はなにも言うな。話がこじれる」

「うーん。多分言わないかな?」

そう言って周助はニコニコしている。

絶対話の成り行きを楽しみにしてる顔だと思う。

「実は俺…女装が趣味なんだ!」

恥ずかしい…。

けれどこれで誤魔化せるのなら…。

「嘘だね?」

にこやかに笑う幸村君。

「え。」

「だって不二が俺に『嘘言ってるよ』って教
えてくれたから」

「周助が!?」

「あ、動揺したね。やっぱり嘘なのか」

はめられました。

もっと慎重に応対すればよかった…。

「君、女の子?」

う…。

「そ、それは……」

「俺、さ。嘘つかれるのが一番嫌いなんだよ
ね」

そう言って笑う幸村君。

エンジェルスマイルのはずが、悪魔の微笑みになってる…。

相変わらず周助は笑ってるし…。

「この鬼畜!ドS!悪魔め!えぇ、私は女だよ!」

「あ、やっぱり(笑)」

(笑)が気になる。

でも意外に怒ってこなくてホッとした。

「ところで君、さ。さっきのプレー見て思ったんだ。
テニス部に入りなよ」

「え?」

「あ、マネとしてじゃなく、選手として」

「でも私…女……」

「この際関係ないよ」

「え」


「不二に言われた苗字さんのテニスに足りない"あるもの"を立海テニス部で探してみないかい?」


この言葉が決めてだった。

「分かった」

そう言うと、幸村君は笑った。

けれど…

さっきまで笑ってた周助の顔は厳しくなる。
「名前!
メモリーを、特に忘れているメモリーを今にするのは大変なんだよ!
それでも…?」

最初は荒々しく、最後は私の反応を見るように静かに聞いてきた。

「メモリー?」

なにも知らない幸村君は首をかしげる。

私はそっと目を伏せる。

「でもね、前に歩き出したいの。
テニスだっ
て、メモリーだったけど今こうしてやってる。
だから…"あるもの"も知りたい。
昔の私が知ってたことなら尚更」

「分かった。頑張って、名前。名前が出した答えなら、僕はそれを応援する」

「ありがと」

私は笑った。

一歩私はまた前に進んだ。


少女はテニスコートへ走った

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