俺と君と私と

□08.今ならホンキで殺せる。
1ページ/1ページ

定期テストが終わり、その次の週…


私には悲劇が待ち受けていた。


「補習!?嘘ですよね、先生!」

「いや、苗字は10科目中9科目は飛び抜けていいのに、古典だけ悲惨だからな。
塾の講師を招いて、お前をマンツーマンで指導してもらう」

うわぁ、マンツーマンって…。

まじかよ…。

確かに、9科目は満点で、古典だけ10点とかいう悲惨な感じだけど…。

古典ってもはや、日本語じゃないから意味不だし…。

「とにかくそういうことだから、今日の放課後空けとけ」

「……はい」

テニス部のみんなには、こんな恥ずかしいこと秘密にしようと思った。



――放課後

「苗字さん、部活一緒に行かない?」

憂鬱で溜め息をついていると、幸村君が言ってきた。

「ごめん。すぐ行くから、さき行ってて」
目を合わせずに私は言った。

補習なんてすぐ終わらせる予定でいた。

「わかった。じゃぁ、すぐ来てね」

そう笑って、幸村君はブン太と部活に行ってしまった。

「さぁ、頑張るぞ!」



三時間後。

「まず歴史的仮名使い分かるか?」

「えっと、んー?」

どこぞの塾から来た講師の先生の問いが分からず、笑って誤魔化す。

「はぁ。まずは基本の"基"から始めんとな。

ほら、これ読んでみろ」

そう言われてプリントを渡される。

レキシテキカナヅカイトハ、タトエバ、コウゴデハ「イ」トアラワサレルモノガブンチュウデ「ヒ」トヒョウキサレ…

あぁ!

意味分かんないって…ん?

「先生、顔ってか体近くないですか?」

恐らく私がプリントを読んでいる間に移動したのだろう。

私の横にいた。

すると先生はニっと笑って

「お前、女だろ。巧妙に隠してあるが、俺には通用しない」

と言うと、胸から腰をなぞるように撫でた。

「なっ…、なにする……」

「ほら、体の体型とか骨格とか、確実に男の
物でない。
触ると分かるよ。あーあ、こういうのすごくそそる。もっと早く気付けばよかった」

バレた!?

なんで。今までバレたことはなかったのに。

体に手を回され、思うように動かない。

「でも俺、男装することで、女の子としての気持ちが欠如してるんですよ?
やめたほうが…」

「それでも、だ」

ガッと押し倒される。
私はただ諦め気味で、部活終了のチャイムを聞いていた。



「けっきょく、苗字来なかったな」

「来ると精市に言ったのだろう。なのに来なかったなんてたるんどる!」

部活終了のチャイムを、部室で着替えながら聞いた。

弦一郎と蓮二がなにか話しているが、頭が言葉を拾えず通り過ぎていく。

「そんな!名前は、無断で部活をサボるような奴じゃない!幸村だって分かってるだろぃ!?」

ブン太が苗字さんを庇うように言った。

「俺も、そう思う。なにか理由があると…。ちょっと見てくる!」

先程から胸の違和感。嫌な予感しかしない。

走り下駄箱まで、行くと…。

あった。苗字さんの靴。

ということはまだ学校にいるということか。

校舎の中に入ろうとすると。

「ちょっと待て!俺も行くぜ」

見ると、ブン太だ。俺を追い掛けて走ってきたのか、息が荒い。

「いいよ。一緒に探そうか」

俺はブン太と一緒に苗字さんを探すことにした。



「あぁ、苗字なら教室で補習を受けていると思うが…」

「分かりました。ありがとうございます」

職員室を出て、教室へ小走りで向かう。

「幸村、意外と早く見つかったな」

「そうだね、まさか補習なんて」

心配して損した、と一瞬思ったのだがまだ嫌な予感は消えない。

ブン太も心なしか不安そうな顔をしていた。

「ついたよ」

先生の言った、苗字さんが補習を受けている教室。

だけど…

「空かない」

ブン太が扉に手をかけて言う。

後ろの扉もダメだった。

「…怪しいよね」

「そう思うだろぃ?俺も」

俺たちは顔を見合わせる。

そして…

扉を二人で同時に蹴り強引に開けた。

派手な音をたてて、板となった扉がとんでいく。

1度やってみたかったんだ、こういうの。

と、一瞬呑気な事を考えたからか、俺はその光景に衝撃をうけた。

苗字さんが、男に押し倒されている。

ブン太は、こういうのは初めて見るようで動かない。

「っ。苗字さんから離れろ!」

そう。

俺にしては珍しく叫び、男を蹴った。

「ぅ…」

自由になった苗字さんは起き上がり、乱れた服を直さずに俺たちを見て驚いた顔をしている。

「おまえさぁ…、最低だね」

男をもう1度蹴った。

男は邪魔されたのが、不愉快らしく、叫んだ。

「アッハッハ。なんでこいつ守るんだ?
こいつはみんなを騙してるんだぜ?ホントは…、女なんだ!」


「だからどうした。」


自分でも、声が一段と低くなったのを感じた。

そして、相手の胸ぐらを掴み言った。

「今ならホンキで殺せる。死にたくないんなら、失せろ。次苗字さんに関わったら

殺すよ

「ヒ…ィ」

男は走って行った。

去ってから、俺とブン太は苗字さんに近付いて言った。

「大丈夫?なに…された?」

恐る恐る俺は聞いた。

すると苗字さんは困ったように笑って

「大丈夫。犯されてない。触られて、跡つけられた程度だから」

あぁ。なんて強いんだろう。

泣きわめかない。ただ困ったように笑うだけ。

すごく衝動にかられて…、


俺は苗字さんを抱き締めた。


苗字さんも、目をそっと閉じた。

「な、言いにくいんだけど、名前。さっきのどういう意味だよぃ?」

ブン太が、聞いてしまった。

「あ…そだね。ブン太は知らないね」

苗字さんは俺の腕の中から、そっと抜け出して言った。

俺は無意識に名残惜しそうに見る。

「うん。私、女なの」

一瞬ブン太の顔がポケン、として…

「よかった…」

え、ブン太。よかった…って、なにを思ってるのだろう。

「秘密だからね」

そう言って苗字さんは、人指し指をブン太の唇に触れさして言った。


「はぁ…、よかった」

家に帰り、私はベッドにバタンキュー。

正直、ホンキで侵されると思った。

覚悟までしたほどだった。

「それにしても……幸村君」

怒ってたな。

正直怖いと思った。

でも、優しく抱き締めてくれて

ちょっとかっこよかったな。

「見付けてくれてありがと、幸村君、ブン太」
私は小さく呟くのだった。


少女はテニスコートへ走った

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ