俺と君と私と

□10.君に勉強教えてあげられるけど?
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「宿題わからない!」

只今夏休みです。

「柳ー。宿題教えてもらいにきたー」

門についてあるインターホンをおし、家から出てきた柳に言った。

「あぁ。宿題分からなかったら俺の家にこい、と伝えていたからな。しかし…」

柳はそう言って、小声で小さく付け足した。

「夏休み初日からテニス部全員が集まるとは、な。さすがに予想外だ」

「え。全員いるのか?」

私は驚いて、少し大きな声を出してしまう。

「ああ。そうなんだ。さぁ、入れ入れ」

そう言われ、柳の部屋に案内された。

柳の部屋は…うん。

広くて、だけど物がいろいろとキッチリ置かれすぎて、違和感を感じるような部屋。

床に置かれた背の低い大きな机に、テニス部が宿題を広げていた。

「よ!名前も来たのか」

ブン太がそうそうに私に気付き、手をふってきた。

私も小さくふりかえす。

「もうここでは狭いな。リビングで移動してやらないか?」

柳は、部屋をみわたして言った。





「うわ、リビングもこれまた広いの」

仁王が案内されたリビングで驚きの声を漏らした。

確かにそのとおりだと思う。

しかも、センス良く置かれた家具がまた…。

「いや、弦一郎の家のほうが広い」

クソ。帽子野郎のくせに、これ以上大きな部屋持ちやがって!

「さ、始めよっか」

幸村君が言った。




「柳。古典が分からないんだ」

私は柳の横にトテトテと、古典の宿題を持って移動する。

「ああ、古典か。得意科目だ。世界一分かりやすく説明してやろう」

頼りになるよ、柳〜!

「それでだな。これはこう…なんだ」

柳は矢印を引っ張りながら説明してくれて、

あのクソ塾講師とは大違いだった。

「すごい!分かりやすいな、柳」

「ありがとう。
しかしだな、精市。睨むのをやめろ。俺は苗字に古典を教えているだけだ」

え?

私は柳の言葉に驚いて幸村君のほうを向いた。

「やだなー。睨んでなんかいないよ」

幸村君は笑ってるんだけど…、オーラがまがまがしくて、まるで後ろに般若が見えそうな…。

「うわっ。ごめん、幸村君。
柳と話したかったんだね!なら柳と話して!
俺は後でいいから…」

と言いながら立ち上がろうとすると、柳に腕をつかまれた。

「いや、苗字。ここにいろ。古典の勉強を続けるぞ。」

「え、あ、うん」

今は教わってる立場だもん。自分からは何も言えない。

もう一度座りなおし、柳の話を聞いていると…

柳がいるほうとは反対側の私の隣に、ふと気配。

バッと振り向くと、幸村君だった。

「俺さ。ここに勉強を柳に教わりにきたんじゃないよ?
柳が人が増えて大変だと言うから、真田と勉強を教えにきたんだ。だから、」

「うん」

私は頷くしかできない。

だって、オーラが!

「俺、君に勉強教えてあげられるけど?」


けっきょく、
左右から勉強を教えられることになりました。


休憩時間。幸村君が麦茶なのに優雅に飲んでいて、見とれていたとき。

柳が不意に私の髪に顔をうずめてきて、

「お前の髪…いい香りだな。女もののシャンプーでも使っているのか?」

「―――!?」

むせる幸村君。あぁ、せっかくの優雅さが。

ブン太は、風船ガムを飲み込んでしまったらしい。喉がぁ〜と唸っている。

そして私は、放心状態。

「あは、はは。女もののシャンプー、髪によくて…」

我ながら苦しい言い訳。

でもでも

「まぁ、苗字の髪の毛は長めだからな。納得できる。あと、丸井、幸村大丈夫か?」

なんとか平気でした。

私はまだヒヤッとした気分で、柳を見上げるのだった。


少女はテニスコートへ走った

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