++ 不機嫌な君 ++
「あー、何か無性にむしゃくしゃする…」
どうやら妻の機嫌が悪い。
原因はよくわからないけれど、一緒に生活している相手がこれではこちらにも影響が出る。
しかも、時計は深夜1:15。
オレは明日も仕事なんだけど…このままにしておくわけにもいかないか。
「どうしたんです?」
とりあえず、当たり障りなく尋ねてみる。
「何かわかんないけど、すんごい暴れたい気分」
「何ですかそれは」
全くわからないが、とりあえずオレに怒っているわけでは無いらしい。余計に訳がわからない。とりあえず、鬱憤が溜まっているなら発散するのが1番かな。
「手合わせでもしてみますか?」
「……手合わせ?」
「……いや、なんでもないよ」
あぁ、眉間のシワといい、わかりやすく不機嫌になりましたね。
確かに、幽助たちじゃないのだから、彼女がそんな事を望むとは思えない。
……本人、暴れたいらしいけれど。参ったな。
「あー、もー……イライラする!」
「その辺走ってくるっていうのは?」
「悪くないけど…あっ!」
「今度はなんです?」
突然表情を一変、楽しそうな笑顔。
段々と適当な返しになってきたのがバレた…という反応ではなさそうだけど。時間も時間だ、面倒な事を言い出すようなら……盛る、かな。
第一、いささか面倒になってきた。
「ねぇ、腕相撲! 腕相撲しよう?」
「……はい?」
相変わらず突飛な事を言い出す。腕相撲?オレと?
いや、それくらい別に構いませんけど…。それで安眠が手に入るなら、本人も気が済んで悪くない、か。
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「正直、ビックリしてます」
ベッドの上で転がる妻、なんて可哀想な人だろう。右手、左手、再び右手と勝負してはみたが。
「もう一回!!」
はいはい。
「いつでもどうぞ」
コロン。
改めてもう一度左手を握るも勝敗が変わるはずもない。
……弱すぎる。ただの人間の女性にしても、あまりにも弱すぎる。
ムキになって初戦途中から両手という実にわかりやすい反則技を迷う事なく堂々とけしかけてきた妻。迷わず倒せば、その反動で転がるひ弱さに言葉がなかった。
「……勝てると思ったんですか? 両手だったら勝てると? 本気で?」
あまりの弱さに驚いて追い打ちをかけるような言葉が咄嗟に口を突いて出た。
言っておくが、卑怯への報復ではない。決して。
「蔵馬、大人気ない!
こんなに一生懸命やってるんだから手加減してくれても良いじゃない!」
少しもためらう事なく両手を選んだ自分は棚に上げますか。そうですか。ほう、オレが大人気ないと。
「はいはい」
文句を口にする元気もなく、それだけ返事をする。あまりに実力差に本人が笑ってしまっている。
なんでも良いが、解決したらしい。
急に訪れた眠気になすがままにされながら目を閉じようとすると、発散できたらしい彼女が俺の腕を強奪して安らかな吐息をこぼし始めた。
……寝よう。
なんだかバカバカしくなってきた。気持ちよさそうに寝ている妻から腹いせに腕を奪い返し、うっという呻きを無視して眠りに落ちてやった。
― fin ―
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