幽☆遊☆白書の夢たち

□幽助
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++ せんせい 2 ++



「みぃ〜つけた!」

「おー…」


こっちを見ることもなく適当な返事を返すのは、最近どうにも構ってしまう我が校1の不良と名高い 浦飯 幽助 くん。
手には悪びれることなく煙を燻らす煙草……。思わず溜息が零れる。

しかし、ここで諦めるわけにはいかない。


「ねぇ、浦飯くん。煙草、止めようよ」

「んだよ、突然」


今日は裏庭。ようやく見つけた浦飯くんは校舎に寄りかかって、煙草をふかしている。私は教師で毎回怒ってるって、わかってるのかしら? あまりに堂々とし過ぎてて不安になる。

……ダメよ、弱気になっちゃ負けだわ! 今日こそ浦飯くんに煙草をやめてもらうんだから!


「煙草はね、百害あって一利なし。 自分の身体にも悪いし、周りの人の体調にも影響するのよ?」

「なら、センセーも近寄らねぇ方が良いんじゃねぇの?」

「そういう訳にはいきません! 見て見ぬ振りして浦飯くんに何かあったら一生後悔するもの」


そりゃ煙は吸いたくないけど、ここで浦飯くんに向かい合わなきゃ彼は変われないと思うから。…それに、嬉しくないけど煙にもほんの少し慣れてきてしまった。
……いけない、いけない! 早く更生させなきゃ、私まで麻痺しちゃうわ!!


「……んじゃあ、いっそ一緒に吸ってみっか?」

「お断りよ!」


満面の笑みで何を言い出すの! ってか、話聞いてますかー? やめようっていう相手を誘うってどういう事!? 意外すぎてビックリしたわ。凄い発想ね。


「んだよ、物は試しって言うだろ」

「試しで死にたくないもの」


そう、煙草は死の薬。絶対に口にしたりするもんですか。それより……堂々と勧められちゃうなんて、やっぱりこの子にとって私は教師になれてないのかなぁ…。なんか、少しヘコむかも。


「んな怖がんなくても吸った瞬間に死んだりしねぇって。それとも間接チューのが気になる〜?」

「なりません!」


無邪気に差し出しても受け取らないんだから! 何が間接チューよ! 動揺なんてしてやらないんだから。


「ここまで来たら、一連托生だろ?」

「あら、ずいぶん親しい位置に置いてくれてるみたいね」

「旅は道連れってな」

「……一緒に死んで欲しいって事?」

「死なば諸共」

「やっぱり死ぬって事かしら?」

「俺とお前の仲」

「何よそれ、夫婦じゃないんだから。それとも新手のプロポーズ?」

「瑠璃、俺の女になるか?」

「瑠璃じゃなくて先生! 全く、子供が生意気言わないの!」


ちょっとドキドキしちゃったじゃない!
俺の女って……いけないいけない。また浦飯くんのペースだわ。私は先生よ。しっかりするのよ!


「んだよ、つまんねーの。折角、付き合ってくれたらセンセーの言う事一つ聞いても良いかと思ってたんだけどな〜」

「えっ」

「でもま、瑠璃チャンには無理だよな〜」


安い挑発ね。でも、もしかしてこれはチャンスなのかしら?……私が一瞬だけ我慢すれば……このプライドと信念を崩して歩み寄れれば……煙草をやめさせることが出来るかも。浦飯くんは約束を破る子ではないし……もしかして、それを試してるの?
私が口だけの先生じゃないか、彼なりに見極めようとしてるんだとしたら……


「………わかったわ。………私が吸ったら、もう煙草はやめてもらうわよ?」


一瞬だけよ。今日までだって浦飯くん追いかけてかなりの副流煙を吸ってる。
私が一瞬吸うだけで、ふたりとも煙からサヨナラ出来るなら、こんな信念やプライド、安いものよね?

でも……


「あっ」


手を伸ばすが掴もうとしたところで浦飯くんは煙草を遠ざてしまう。


「ケッ、バーカ! ここまで言っといて、簡単に手ェ出すなっつの」

「浦飯くん…?」


軽口叩いてるけど、複雑な顔してそっぽ向いちゃった。……うーん、選択間違えちゃったかしら?
でも…


「簡単じゃないよ。でも、浦飯くんが煙草やめてくれるなら吸ってもいいわ」


何だろう? 少しいじけたみたいな……あぁ、もしかして動揺してるのかな? ふふ、そうよね。どこか大人びてるところがあって忘れてたけど、まだ中学生だもの。そう思うと可愛いかも。


「……ガキ産む時困るぜ?」

「………君がそんな事を気にするとは、意外だわ」


……本当に中学生よね? 何だかたまに発言に重みがあるというか、現実的というか。

浦飯くんはもうひとつ白い息を吐き出しながら、空に昇るその煙を見ている。

それを見て純粋な興味が沸いた。
そこまでしてやめない理由が何かあるのかしら?


「……そんなに美味しいの?」

「いや。すげぇ不味い」


ガッカリよ、浦飯くん。
じゃあ何でそんなの吸ってるのよ。


「……本当にやめましょうよ、私も良い加減煙いし」

「んなもん慣れだ慣れ。
毒を制すば皿までっていうだろ」

「毒を食らわば皿まで…ね」

「それそれ」


前から思っていたけど…浦飯くん、たまに間違えてるけど日常会話でこれだけスラスラ出てくるんだもの国語は中々悪くないみたいね。ことわざや四字熟語を結構知ってるし、ちょっとした感動すら覚えるわ。

結局、私は煙草を口にすることなく、彼もやめると口にする事なくその日も終わった。けれど、それ以来、浦飯くんは煙草を吸わなくなった。少なくとも、私の前では。







 ― to be continued ―     





    


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