++ 甘い蜜は毒の味 2 ++
行きますか、と突然軽くデートとやらに連れ出されたある日の放課後。やって来たのは駅前のお洒落なカフェだった。
「ちょ、私、今日1000円しか持ってないから!」
迷わず入ろうとする南野くんの腕にしがみつくようにした私は、いよいよ青ざめてそう言った。恥を忍んで。
「あぁ、良いですよ」
「良いわけあるかっ!」
高校生なんてお金がない代表でしょうが!
いくら顔が良かろうがモテようが、それは変わらないハズだし、それに確か南野くん母子家庭じゃなかったっけ?
そんなの余計に彼女でもなんでもない私が甘えるわけにはいかないっての!
なのに、人の話は全く聞こえていないのか、逃げ腰の私の背を軽く押して店内に入る。
「…わぁ」
抵抗も忘れた。
輝くようなケーキが並ぶショーウィンドウ。どれもこれも素敵だけど、赤と黄色のグレープフルーツを丸く交互に並べ、ミントを乗せたタルトに目を奪われフラフラと歩み寄ってしまった。
「お気に召しましたか? こちら人気商品で御座いまして本日も出ている分のみとなっております」
「そうなんですね…」
「じゃあ、それを一つ。それからブレンドコーヒー。……月、飲み物は?」
「え? あ…、こ、紅茶を!」
「かしこまりました。本日のオススメはローズティーで御座いますが、こちらでよろしいですか?」
「は、はい…」
しまったっ! そう思った時には後の祭り。可愛らしい制服のお姉さんに案内されるまま窓際のソファに案内された。ここまで来ては逃げようもない。ニコニコしながら向かいで頬杖をついている南野くん。確かに目の保養ではあるけど、特等席を拒否するつもりはないけれど…何だって私はここにいるんだろう。やっぱり今からでも遅くないんじゃないか、そう考えたところでお姉さんが飲み物を運んできた。目の前でカップに注がれた紅茶からは薔薇の芳醇な香りが広がり、緊張していた筋肉がふわりと解けた。……諦めよう。そう思い一口、口に含むと渋味もあまりない、まろやかな舌触りに肩の力も抜けた。
「もう身体で払うしかないか。…皿洗いやらせてくれるかな…」
むせた。イケメンがむせたよ。こっちが真剣に悩んでるっていうのに、何が面白かったんだ?
息を整えてからも口に手を当てたまま上品にクスクス笑っている。涙まで浮かべているのに、そんな姿も様になるなんて羨ましいを通り越して腹立たしい。
「……後日請求で手を打ちませんか?」
不貞腐れて、もう何でもいいとそっぽを向く。