幽☆遊☆白書の夢たち

□蔵馬
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++ 偽りの生活 ++




目を開けると、そこには見知らぬ部屋だった。

「……え?」

カーテンも間取りも家具も見覚えがない。一体、何が起こってる?そう思いながら身体を起こしたままベッドの上で呆然としていると扉が開いた。顔をのぞかせたのは見慣れた母だった。

「ちょっと、いつまで寝てるの? 初日から遅刻するわよ!」

「遅刻…? 今日って、何だっけ?」

「寝惚けてないで、早く制服着替えちゃいなさい」

「せい…ふく?? あっ、ちょっ」

母の視線を辿って驚いているうちに扉を閉められてしまう。だって壁には見覚えのない真新しい学生服がかかっているのだ。これはもう夢を見ているのだろう。中学や高校なんて、かなーーーーーり前に卒業している。うん。担任の先生のフルーネームがすぐに出てこないくらいの時は流れている。
そうだ、まずは状況の把握から始めよう。なにせ私は現在一人暮らしだし、実家もこんな部屋ではない。しかも、よりによって学生服に着替えろなんて…私は幾つなのか。

……まぁ、着てみるのだけれど。何せ、セーラー服っぽいのだから。私が通ってた中高はセーラー服じゃなかったから……ちょっと憧れてたんだよね。夢なら良いでしょ。オカーサンが着ろって言ったんだ、うん、きっと許される。

(えーっと…ふぅん、セーラーと言っても変形なのね。色も珍しいし。黒のハイソックスと、鞄はこれかな?)

全く見覚えのない服と格闘しながら部屋の鏡を見る。さすが夢だ、自分の姿も若くなっている。なかなか様になっている気がするのは贔屓目かな。まぁ、自分の夢なんだし良いだろう。

部屋を出て見るが、やはり見覚えのない家。
生活音を頼りにリビングにたどり着く。

「やっと起きてきた! ほら、ご飯冷めちゃったわよ? 早く早く」

「ごめんごめん!」

夢なのにしっかり熱も味もわかるなんて初めてかもしれない。

「ほら! 慣れるまでは早めに出ないと!」

「はーい、行ってきまーす!」

半ば追い出されるように玄関から飛び出す。
しかし門から外に出た私は、はたと気付いた。

(……学校ってどこ?)

とりあえず周りを見回して見たが、こんな住宅地では右も左も分からない。困り果て見回した先、人影が見えた。似た色の学ラン。もしかしてたら一緒の学校なのかもしれない。そんなことを考えながらジッと見つめていた為か、彼と視線がぶつかった。とっさに笑みを浮かべたものの、誰かもわからないのだからと軽く会釈をしてみる。

「ちょっと、瑠璃! あんた生徒手帳忘れて…あら、秀ちゃん!」

「おはようございます」

知り合いだったらしい彼。母ともこんなに仲が良いなら会釈なんて不自然だっただろう。手でも振れば良かったかもしれない。

「制服、似合ってるじゃない。かっこよく決まってるわ!」

「ありがとうございます」

確かに凄く格好良く決まっている。男性にしては少し長めの髪だけれど、まるでモデルのように中性的な格好良さ。身長も割と高めのようで私よりも頭一つ大きい。

「相変わらず、しっかりしてるわね。実はね、今日は瑠璃、なんだか緊張してるみたいでボーッとしてるのよ。悪いけど、ちょっと見てあげてくれる? 秀ちゃんが一緒なら安心だわ!」

とりあえず母が物凄く信頼しているのはわかった。これはいわゆる幼馴染というやつなのだろうか。女子校育ちの私は幼馴染の男の子というものを、まさに夢に見るほど憧れていたけれど、こんなイケメンだなんて本当に都合のいい夢を見たものだ。

「はいはい、しゅうちゃん。 ほら、もう行こう!」

母のマシンガントークは止まらなそうだし、学校遅れちゃうんじゃないかと止めに入ったんだけど…。

「あら……」

そういった途端、2人が驚いた顔をしてこちらを見た。ん?なんで2人ともそんな顔? 『しゅうちゃん』って聞こえたけど、実は違ったとか?

「ふふ、それじゃあ2人とも、気をつけていってらっしゃい!」

助け舟なのか、母にそう見送られて歩き始める。と言っても私は行き先がわからないから、彼に合わせて歩くしか無いのだけど。
母の姿が見えなくなると、「しゅうちゃん(仮)」がちらりと視線を送ってきた。そりゃ、幼馴染に名前間違われたら不審がるよね。どうしよう。

「変な物でも食べました?」

「いや……ちょ、ちょっと寝ボケてるみたいで……」

無理がある…我ながら酷い言い訳だ。ああぁ、視線が痛いよ。イケメンの視線ってそれだけで結構な威力があるんだなぁ。お願いだから、そんなに見つめないで!死んじゃう!!

「………」

絶対に納得してないのが視線から伝わってくるけれど、なんて言えば良いのかわからないので黙っておく。それにしても、この子、高校生にして迫力ありすぎるんですけど!!

「……ところで、こんなに近くを歩いてて良いんですか?」

「え?」

「もうすぐ学校着くけど?」

「………ダメなの?」

「…………………」

何で訝しげな顔? 喧嘩でもしていたのかな? でも、今のところ彼しか知り合いはいないわけだし、あ……しまった、考え事してたから帰り道わからない。つまり、これは彼がいなければ帰ることも出来ない訳で…。やっぱり彼とは仲良くしておかなきゃいけないわけだ。

「まぁ、お互い色々あったけどさ、同じ学校な訳だし嫌な事はサラッと水に流して仲良くしようよ! ね! ってわけで、帰りも一緒に帰ろうねっ!!」

押し切るしか無い。ここは納得しろ若者よ。おねーさん、困ってんだからさ!

「……はあ…」

明らかに納得していない声がしたが聞こえない聞こえない。せめて帰りと、もう一回くらい一緒に通ってもらわなければ迷う! まぁ、それまでに夢から覚めるなら問題はないのだけど。

そんなことを考えていたら同じ制服の生徒の姿が増えてきた。流れに沿って門をくぐると生徒たちで溢れている。私はここの生徒で間違いなさそうだ。ほっと胸をなでおろすのも束の間。周りの視線が一気に刺さる。

「………」

ザワザワと騒ぎ出している生徒たちその視線の先にいるのは私……ではなく、隣のしゅうちゃん(仮)。アイドルかっ!と思うけれど、確かに格好良いのだから納得せざるを得ない。これは、知り合いと知られたらいじめとかにあってしまうのだろうか?
ちょっとした恐怖に身を竦ませたところで背中に何かが当たる。

「どうかした?」

知らぬ間に後ずさっていたらしい。後ろにいたしゅうちゃん(仮)にぶつかってしまったようだ。

「な、なんでもない……あー! ホラあそこ、クラス分けの紙貼ってあるよ! ホラホラ早く行こっ!!」

まだおかしな顔をしている彼をタックルよろしくグイグイ押しながら掲示板の前に行く。周りの視線がどうした! 彼氏ではないが、これが幼馴染特権という奴だ!私の夢なのだから、私に都合が良くても何一つ問題はない。さぁ、存分に羨ましなるが良い皆の衆!
それに、きっとこれで彼の名前がわかるだろう。

(えーっと、私の名前は…)

「Bだ!」

「俺はAみたいですね」

「そっか、別のクラスかぁ」

せっかく同じ学校なのに、なんか寂しい。そう思っていたらポンポンと頭を撫でられた。突然のイケメン行動に驚いて見上げる。行動だけでなく綺麗な顔がこちらを見ていて心臓がうるさい音を立てた。顔が熱い。
なのに、しゅうちゃん(仮)の方が驚いた顔してるんだから、余計に焦る。こんな時は誤魔化すしかない!

「教室行こう! 教室っ!!」

半ば強引に下駄箱まで引きずって行く。くぅ、イケメンの幼馴染への免疫機能が欠けてますよ!夢のくせに感触までリアルで顔をそらして隠しても頬の熱は引いてくれない。本当にこんなイケメンを生み出せる私の妄想力に拍手を送りたい。

「俺は職員室に寄ってから行くので、先に行ってください」

「え、でも…」

「階段上がって2階のはずですよ。……1人で行けますか?」

「なっ! い、行けるよ! 子供じゃあるまいし!」

遊ばれている…くすりと笑った彼は「では」と職員室に向かって行った。







 ― to be continued ―     



    



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