加藤元浩作品

□Picture
1ページ/2ページ


とある国際空港の、ロビー。



「・・・電話なんて、してあげない」


「・・・」


「メールだって、手紙だって、送ってなんかやらない」

「・・・」



少年は、さっきから続いている少女の言葉を、俯きながら聞いている。

黙った、ままで。


黙ることで、少女の言葉を受け流そうとするように。


「アメリカなんて遠いし。行こうと思っても行けないし」

やがて、少女の口調がだんだんと悲しそうなものに変わってきた。


「・・・だから」

だから―――、行かないでよ。


そう言おうとして、少女は口を閉じた。


(今のこいつには、こんな言葉なんて鎖になるだけ、か―――)


俯いたままの少年の瞳には―――静かに、だけれど確かに、ゆるぎない誓いの色が浮かんでいた。


それをかすかに見た少女は、少しだけ目に涙を浮かべて、少年に背中を向け、空港を去った。



ただひとり、そこに残された少年は、少女が自分の鞄の上に何かを置いていったことに気付く。


俯かせていた顔を上げ、それを見る。



それは―――、一枚の写真。


在りし日の自分と、その横で幸せそうな顔をして写っている少女―――水原可奈。


永遠に一緒だと、願っていた日々の中の、一枚。


少年―――燈馬想は、そんな昔の、今では叶うことのない日々を思い出し―――。


目標への誓いを込めた瞳を、涙で濡らせた。



(ただふたり、笑いあっていた毎日)

(もうあの頃には戻れませんか?)





・・・→
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ