そして悪魔は笑う
□悪魔は見ている
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「どうしよう、次の授業で必要なのに」
それは律歌の自業自得である。
「いいよ、雪館さん。俺が貸すから」
「ありがとう。私、桜井君みたいな優しい人、大好き」
だが、自業自得であってもそれは神尾から物を借りれないことだけであって、他の人物からは物を借りることができるのだ。
今で言えば、律歌からお礼を言われて顔を少し赤くした桜井が他の人物に該当する。
「今、持ってくるよ。ちょっと待ってて」
桜井はそう言うと走って自分の教室へと向かった。
残されたのは神尾と律歌。
「なにが『桜井君みたいな優しい人、大好き』だよ」
「あら、妬いてるの?」
「だれが妬くか!」
「それより、辞書くらい貸してくれてもいいじゃない。あの赤とピンクのラインで埋め尽くされた辞書」
卑猥単語とグロテスク単語のみラインで引かれた辞書に、神尾はそれを有耶無耶にするかの如く、赤とピンクのラインを関係のない単語にまで引いたのだ。だが、その辞書を使っている神尾に対し、変人と思う人もいるが。
「まぁ、本当は辞書なんて忘れてないんだけどね」
「はぁ?じゃあ、なんで辞書なんか」
「……アキラが喋るのを遮るため」
声のトーンを下げ、鋭い視線で神尾を見る律歌。口元は弧を描いており、それは正しく悪魔のようだ。