魔王、天使に恋する
□魔王、天使を勧誘する
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「直木、一緒に昼食を食べないか?」
「え、いいの?」
「あぁ。幸村も一緒だが構わないよな」
「うん。でも邪魔じゃないかな」
「そんなことない。“ぜひ”一緒に食べよう」
ぜひ、のところを少し強調して言った。
直木を連れてこなければ、午後の部活はまたもや俺だけ特別メニューである。それは避けたい。
そして昼休み、俺は直木を連れて幸村の教室まで向かった。
「精市」
「あ、柳……と、直木さん」
幸村はわざとらしく直木のことを呼んだ。
「一緒に昼食を取ろうと俺から誘ったんだが」
「お邪魔だったかな?」
不安そうな顔をして幸村を見つめる直木。先ほど挨拶程度の会話をしただけなので不安なのだろう。
だが、あえて言おう。今の彼女の発言に対し『邪魔だ』などとマイナス要素たっぷりの言葉を返せる奴がいたら見てみたいものだ。
「全然構わないよ。むしろ俺も直木さんともっと仲良くなりたいって思ってたし」
当然幸村も直木を邪魔だとは思っていない。なぜなら、俺に直木を誘うように聞こえない言葉の圧力で俺を脅してきた魔王なのだから。
今も彼女に見えないように、俺に対し『よくやった』とでも言うように親指を上に立てている。
幸村の返答に直木は、
「ありがとう!」
誰もが目を奪われるような笑顔で幸村にそう言った。その天使のような笑顔はあるいみ相手の心を惑わすような攻撃をしてくる。俺も思わず開眼してしまった。
そして幸村はというと……
「……うっ!?」
「ゆ、幸村君!?」
一瞬気を失い倒れそうになるところで、しゃがみこんだ。
どうやら天使の攻撃は魔王にかなりのダメージを与えたらしい。
「大丈夫?」
「うん、平気だよ。さっきの体育で張り切りすぎたかな」
ちなみに今日、幸村のクラスに体育の授業はない。そしてそのことを俺は直木に教えるつもりはない。
なぜなら『余計な事を言うんじゃねぇぞ』というオーラが幸村から醸し出されているからだ。