そして悪魔は笑う
□悪魔は見ている
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「まず、あいつは……」
「アキラ君」
名前を呼ばれたので、神尾が振り向く。呼ばれたわけではないが、桜井も同じ方を向いた。
「げっ、律歌!」
神尾が言うことを遮るかのようなタイミングで、雪館律歌が現れた。
「あ、雪館さん」
「こんにちは、桜井君」
「こんにちは」
悪魔とは程遠い笑顔で挨拶をする律歌。そんな彼女をみた桜井は、神尾が悪魔と言っている理由が全くわからない。
「で、何しに来たんだよ?用件述べたらすぐ帰れ」
「おいおい、そんな言い方すんなよ」
「いいの、桜井君。アキラ君がこういう風なのは、もう慣れてるから」
もちろん、神尾がこういう風なのは律歌のせいなのだが。だが、その理由を知らない者たちは、誰もが彼女をかばいたてる。
「優しいのね、桜井君」
「いやぁ〜」
もちろん、律歌がこうやって褒めるのはただの社交辞令であり、神尾にとってはこうやって騙していくのか、と再確認されることでもある。
「で、用件は?」
「辞書を貸してほしいんだけど?」
「絶対嫌だ」
「神尾、お前ケチすぎるだろ。いいじゃないか、たかが辞書だろ」
「それが嫌なんだよ」
神尾が律歌に辞書を貸さない理由。
過去に一度、彼は彼女に辞書を貸した。そして戻ってきた辞書には卑猥な単語にピンクのマーカーを、グロテスクな単語に赤いマーカーを使ってアンダーラインを引かれていた。
それ以来、神尾は律歌に辞書はおろか物自体貸さないでいる。それは辞書以外にもいろいろと悪戯されて返ってきたためである。