そして悪魔は笑う

□マネージャーの思惑
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雪館律歌がテニス部マネージャーとして働く初日。彼女は、テニスに関する知識もマネージャーの仕事内容もほとんどわからない状態であった。

とりあえず、今日のマネージャーの活動は部室の掃除、ドリンクとタオルの準備で、他にやることがあれば後で指示を出されることとなった。


「………」

「神尾、ドリンク飲まないの?」

「いや、飲む……」


石田は、ドリンクを飲まずに見つめている神尾を不思議に思い、声をかけた。

部員1人1人に渡されたドリンク。厳しい練習のため、水分補給はスポーツをする人間にとって欠かせない。多量に汗をかいたことにより体内の水分が失われているからだ。
もちろん、それは神尾もわかっている。だが、なかなか飲まずにいた。

そんな彼にもう1人、律歌が彼の顔を覗き込むように声をかける。


「アキラ君、どうかしたの?」


神尾は、視界の一部に律歌を捕えたあと、すぐに彼女の手を取り、他の部員から遠ざかった位置に連れていく。その急な行動に部員はさらに不思議に思った。

ある程度離れたあと、神尾は小さな声で言う。


「お前、ドリンクに何も仕込んでないよな……?」

「……だから飲まなかったのね」


過去に律歌が作った強力な下剤入りのマフィンを食べ、酷い目にあった神尾。それ以来、彼女が関わっている食べ物・飲み物の全てが疑わしいものとなってしまうどころか、彼女の行動1つ1つに注意を払うようになった。

律歌は呆れたように溜息を1つ吐くと、


「そんなに疑うのなら、毒味してあげる」


と言って、手を差し出しドリンクを渡すように言った。


(どういうことだ?ドリンクに何かを仕込んでいるなら、わざわざ自分から毒味だとは言わないはず。ということは、ドリンクには何も入っていないのか?……いや、自分から飲むように買ってでて、飲むフリをすることもあるな)


そう考えた神尾は、律歌にドリンクを渡して彼女の飲む様子をしっかりと見ることにした。

律歌は手渡されたドリンクを2,3口飲んでいく。コクコクと飲む度に動く喉を神尾は見ていた。


(……何も仕込んでないのか?)
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