そして悪魔は笑う
□知らないココロ
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それは、ある日の不動峰中学校図書室でのこと。
その日はテニス部の活動が休みであったため、律歌は閑静な空間であるそこで本を読んでいた。が、途中で中断して本を閉じた。
(こんな劣悪な作品を読んで……時間を無駄にした)
図書の紹介コーナーに置いてあったため、その本の紹介文を読んで手に取った律歌。
しかし、推理小説をよく読む人や勘が鋭い人、知識・推理力の高い人にとってその本の推理はとても陳腐な内容だったらしい。現に彼女も読み進めていくうちに犯人が誰かわかってしまった。
(他の本でも探そ)
本を紹介コーナーに戻し、新たな本を物色しようとしたときだった。
「よぉ、雪館」
自分の名前を呼ばれたため、律歌はその方へと顔を向けた。
「あ、橘先輩。こんにちは」
「借りにきたのか?」
「はい。さっきまでこの推理小説を読んでたんのですが、あまり面白くなかったので借りるのやめました」
律歌が視線でその本を示せば、橘はへぇ、と相槌を打ちながら本の紹介文へと目を向けた。
「紹介文だけなら面白そうに思えるが。これを書いた奴の方がよっぽど文才あるんじゃないか?」
「そうかもしれませんね」
橘の言葉に返答した律歌。
ふと視線を少し落とせば彼の手にも本があった。
「橘先輩の持っている本は……?」
「これか?『三国志』だ。読み終わったから返却の手続きと次の巻を借りようと思ってな」
「『三国志』って、面白いですか?」
「好みもあると思うが俺は面白いと思うぞ。それにこの本はわかりやすい」
律歌は基本的に推理小説か今が話題の本しか読まない。だから、歴史小説にはほとんど興味はないのだが、何故か惹きつけられてしまった。
「じゃあ、私はその本を借ります」
「おっ、本当か!俺の回りで『三国志』や歴史小説を好きな奴なんていなかったから、これで雪館が『三国志』を好きになったら、やっと話し相手ができる」
橘が笑顔でそう言ったからか、律歌も自然と笑っていた。
そして橘は『三国志』の1巻を返却して2巻の貸出手続きを、律歌は橘が借りていた1巻の貸出手続きを行った。
「雪館はまだ図書室に残っていくのか?」
「いえ、もう帰ります」
「それなら一緒に帰らないか?送っていこう」
「はい。よろしくお願いします」
2人とも手にした本をカバンに入れ、荷物を持って図書室を出た。