そして悪魔は笑う
□知らないココロ
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玄関へと向かう途中、橘はずっと律歌に聞きたかったことを質問した。
「突然なんだが、どうして雪館はテニス部のマネージャーを引き受けてくれたんだ?」
「本当に突然ですね」
やっぱり神尾がいたからか、と苦笑した感じで聞いてきた橘。
自分たちが起こした事件によりテニス部の評判はよくないのに、そんな部にマネージャーとして律歌は入部した。そのことによって、彼女自身の評価を下げてしまうのではないかと彼は心配していた。
「んー……個人的興味というんですかね」
「個人的興味?」
彼女の発言に橘は首を傾げた。
「アキラ君がいたのも1つの理由ですけど、皆さんに興味があったんですよ。先輩や先生にまで逆らってテニスをしたい……私には持ち合わせていないものなので」
律歌は今まで何かに“興味”を持ったことはほとんどない。
人並みの感情は持ち合わせている。だが、気付いたときには回りに色づいたものがない、モノクロの世界となっていた。
その中で唯一、律歌が興味惹かれたのは幼馴染である神尾だった。彼女にとって神尾の反応はとても面白く、日が経つにつれてそれはタチが悪いものへと進化していった。
「面白い答えだな」
「そうですか?」
「普通の奴はそんなことは考えないだろ……あ、その、だからと言って、雪館が変わってるとかそういう意味じゃなくてだな」
律歌にとっては何とも思わない言葉だが、失言したと思いあたふたしてしまう橘を見て律歌は笑った。
「上から目線かもしれませんが、私の興味を損なわないでくださいね」
「あぁ。雪館の期待を裏切らないよう俺たちは頑張る」
ちょうど話が一段落したところで、玄関に着いていた。
靴を履き換えようとそれぞれ下駄箱へ向かおうとした。
「雪館さん」
律歌が呼びとめられ、その方へ向く。橘も律歌と同方を向いた。そこには1人の男子生徒がいた。
律歌の名前が呼ばれたのだから当然、彼女の知り合いであることは間違いないのだが、
(……誰、だったっけ……?)
興味のないことは忘れやすい彼女は、その男子の名前を覚えていなかった。
「……新田君、何か用かな?」
名札で名前を確認し、返事をする。すると、その新田という生徒は橘を一瞥してから言う。
「ちょっと話があるんだけど、いいかな?」
「えっと……」
律歌は視線を橘に向ける。正直な気持ちは橘と一緒に帰りたかった。
せっかくの誘いではあったが、断ろうと口を開いた。
「すみません。橘先輩、先に帰っていてください」
「俺のことは気にしなくていい。ここで待っているから行ってこい」
橘の言葉に律歌はますます申し訳なくなるが、ここは言葉に甘えることにした。