そして悪魔は笑う

□わからない
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そして放課後、部活も終わり、部室に残っていたのは律歌と橘であった。彼に部活動終了後に話があると律歌は言って、残ってもらっていた。


(はぁ〜、いざ誘うとなると緊張するわね)


脈打つ鼓動がいつもより大きく聞こえている。律歌は今までになく緊張していた。


「あの、橘先輩!」

「そうだ、雪館」


お互いに同時に言葉を発し、しばし沈黙が流れた。


「……先に橘先輩からどうぞ」

「ああ。その、今度の土曜日、何か予定はあるか?」

「え、予定……ありません」


むしろ誘いたい、と律歌は思っていた次の橘の言葉を聞くまでは。


「映画のチケットを貰ったんだ。一緒に行かないか?」

「い、行きます!行きたいです!」





◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆





「……というところまでが、私がチケットを貰ってからデートを誘われるまでの流れよ」

「内村と橘さんのエピソードは別にいい。最初の奴が名前も出てこないし、気の毒すぎるな……まぁ、俺はライブに行けるからいいけど」


神尾は貰ったライブチケットを見上げた。


「さて、俺は誰を誘おっかな〜。やっぱり、杏ちゃん?ってことは、デート?いやぁ、そんな、俺は友達として杏ちゃんを誘うつもりであって」

「…………」


神尾の一人でニヤけながら語る気持ち悪い姿をよそに、律歌は何かを考えていた。彼女にしてはめずらしく無表情である。


「…………やっぱり、返して」

「は?何言ってんだよ」

「いいから、返して!」


スキをついて律歌は神尾からチケットを奪い取った。


「何でだよ!お前、橘さんと映画なんだから行かないだろ」

「気が変わったの。これは捨てる」

「そんなもったいないことさせるか!いったい、どうしたんだよ?なんか俺、悪いこと言ったか?」


身に覚えはないが、律歌が不機嫌である理由がわからない神尾。尋ねて、内容によっては謝ろうと思っていた。


「……アキラが」


言い渋りながらも、律歌は口を開く。


「アキラが楽しそうにしてるの……なんかムカつくから」

「お前は鬼か!俺が楽しみにしているのがそんなに嫌か!」

「そういうわけじゃないけど……」


神尾には初めて見る幼馴染の姿に少々困惑していた。そしてそれに感づいた律歌。

自身でもわからない気持ちとそれをわかってくれないことにさらに機嫌を損ねたようで、


「いいわよ。あげるわよ!……もう帰る」


律歌は机に叩きつけるようにチケットを置くと、そのまま部屋を出ていった。


「何なんだ、あいつ……」


閉まった扉を、神尾は呆気にとられながらもしばらく眺めていた。
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