日吉君の隣の席の彼女

□#5
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「はぁ……」


朝、めずらしく服部が本を読まず、窓越しの風景を見ながら溜息をついていた。表情はなんというか“儚げ”という言葉が似合う。授業中もどこかボーっとしていた。


「どうかしたのか?」

「え、あぁ、うん。ちょっとね……」


気になって声をかけるが、返事も素っ気無い。
普段、強気な彼女を見ているせいか、こんな姿を見ると、ほんの少しだけ心配する。


「お前にはよく世話になっている。俺でよければ話ぐらいは聞くが……」

「じゃあ、聞いてくれる?」


しかし、人の多い教室内だと話し辛いということで、昼休みに屋上で話すことになった。

そして昼休み。俺は購買でパンを買ってから弁当を持って屋上へ向った。服部はすでに屋上で待っており、昼食を食べながら彼女の悩みを聞くことにした。


「昨日、ボクシング見に行ったの」

「あぁ、あれか……」


昨日……格闘技に興味がある服部は、滝先輩からボクシングのチケットを貰っていた。


「その帰りに、3人の男に絡まれて。断っても聞いてくれなくて」


服部は美人だ。ナンパされてもおかしくない。


「いつもなら人気のないところに連れて行って撃退するんだけど、その前に別の男の人が助けてくれた。そんなことは初めてで、彼のことが忘れられないの」


……つまり、それは……、


「……恋、か」

「…………」


そう言えば、見る見るうちに服部の顔が真っ赤になっていった。

まさか服部が恋をするとは……。あの服部が……柔道、剣道、空手、プロレス、さらにはボクシング、ムエタイ、カポエイラといったありとあらゆる格闘技に精通したあの服部が……恋をした。

それにしても、恋の悩みか。俺の苦手なところだな。まぁ、話だけは聞いてやろう。話だけ。


「その人、学生でテニスラケット持ってた」


確か、ボクシングの会場は神奈川。学生でテニスラケットを持っていて……そういえば今度、合同練習が……。


「もしかして……立海の人か?」

「うん。校章見たから」

「で、今度の合同練習に来るかもしれないと思ったのか?」

「うん。出来ればその練習を見に行きたい」

「でも、面倒くさい跡部部長やうざい忍足先輩、しつこい榊監督がいるから見に行けない、と」

「うん。その通り」


アホベ、眼鏡、榊といった奴らから迫られれば、思いを寄せる相手に応援どころか、見ることもままならないかもしれない。
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