日吉君の隣の席の彼女
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「はぁ……」
朝、めずらしく服部が本を読まず、窓越しの風景を見ながら溜息をついていた。表情はなんというか“儚げ”という言葉が似合う。授業中もどこかボーっとしていた。
「どうかしたのか?」
「え、あぁ、うん。ちょっとね……」
気になって声をかけるが、返事も素っ気無い。
普段、強気な彼女を見ているせいか、こんな姿を見ると、ほんの少しだけ心配する。
「お前にはよく世話になっている。俺でよければ話ぐらいは聞くが……」
「じゃあ、聞いてくれる?」
しかし、人の多い教室内だと話し辛いということで、昼休みに屋上で話すことになった。
そして昼休み。俺は購買でパンを買ってから弁当を持って屋上へ向った。服部はすでに屋上で待っており、昼食を食べながら彼女の悩みを聞くことにした。
「昨日、ボクシング見に行ったの」
「あぁ、あれか……」
昨日……格闘技に興味がある服部は、滝先輩からボクシングのチケットを貰っていた。
「その帰りに、3人の男に絡まれて。断っても聞いてくれなくて」
服部は美人だ。ナンパされてもおかしくない。
「いつもなら人気のないところに連れて行って撃退するんだけど、その前に別の男の人が助けてくれた。そんなことは初めてで、彼のことが忘れられないの」
……つまり、それは……、
「……恋、か」
「…………」
そう言えば、見る見るうちに服部の顔が真っ赤になっていった。
まさか服部が恋をするとは……。あの服部が……柔道、剣道、空手、プロレス、さらにはボクシング、ムエタイ、カポエイラといったありとあらゆる格闘技に精通したあの服部が……恋をした。
それにしても、恋の悩みか。俺の苦手なところだな。まぁ、話だけは聞いてやろう。話だけ。
「その人、学生でテニスラケット持ってた」
確か、ボクシングの会場は神奈川。学生でテニスラケットを持っていて……そういえば今度、合同練習が……。
「もしかして……立海の人か?」
「うん。校章見たから」
「で、今度の合同練習に来るかもしれないと思ったのか?」
「うん。出来ればその練習を見に行きたい」
「でも、面倒くさい跡部部長やうざい忍足先輩、しつこい榊監督がいるから見に行けない、と」
「うん。その通り」
アホベ、眼鏡、榊といった奴らから迫られれば、思いを寄せる相手に応援どころか、見ることもままならないかもしれない。