日吉君の隣の席の彼女
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グラウンドを走って、コートに戻る…………ド派手な椅子があるのは見間違いだ。
そう思い、俺は目を擦ってもう一度見た…………ド派手な椅子がある。藤子専用って書かれた紙がはってある。
グラウンドをもう5周してからコートに戻ってきた。
「……樺地、あの椅子をどう思う」
たまたま外にいた樺地に声をかけた。
「…………」
樺地が椅子を片付けてくれた。あいつもあの椅子には賛同していなかったのだろう。
「あの椅子は何に使う予定だったのかな?」
声の方へ振り返れば、立海テニス部が到着していた。
「おはようございます、みなさん」
「ったく、校門に迎えに来ないとは……たるんどるぞ、氷帝」
「弦一郎は黙ってて。ついでに息も吸わないで」
今、幸村さんがサラリと何か言ったような……。気のせいか。
「うん、気のせいだよ。それより跡部を呼んできてくれる?」
「はい」
幸村さんが俺の心を呼んだかのような発言をしたが気のせいだろう。
その後、両校集まって部長同士挨拶を交わし、練習メニューが発表された。基礎練習から始まり、ミニゲーム、最後に試合という内容だ。
だが、やはりどちらも強豪校。基礎練習がハードだ。
ま、俺にはこれくらい楽勝だし、ここで弱音を吐いていては下克上なんて永遠に無理だ。
「あ、基礎練習をこなせない奴は“アレ”だから」
幸村さんが言う“アレ”。当然、氷帝部員はわからない。何なのだろうか?
「あ、“アレ”をやるのかよぃ」
「“アレ”だけは勘弁してほしいッス!」
丸井さんと切原が怯えている。そんなに凄いのか?
「幸村は飴と鞭の鞭しかあたえんのう」
「“アレ”は地獄のようなものですからねぇ」
仁王さんや柳生さんも恐れているのか、“アレ”に……。
「さすが幸村。罰を“アレ”にするとは」
「しかし、この練習量で“アレ”は酷じゃないか?」
「そうかもしれんが、“アレ”に対する恐怖心から皆がやる気を出している」
真田さんと柳さんまでもが“アレ”…………気になる。
「おい、お前らの言う“アレ”って何だ?」
「知りたいんなら基礎練習をやらなきゃいいよ、跡部」
「なら、一生知る機会がねぇな」
「それはどうかな?」
幸村さんの笑顔が眩しい。同時に怖い。
“アレ”は気になるが、練習はサボれない。なぜなら、“アレ”が待っているから。
基礎練習が始まった。しかし、どうしても“アレ”が気になった。モヤモヤするので近くにいた立海の人に聞いてみた。
「“アレ”って何をするんですか?」
「日吉か……悪いが、“アレ”については言えねぇ。口に出すのも恐ろしいからな」
そう言って……あれ、この人の名前……確か、ジャ……ジャ……あ、思い出した。
「そうですか……興味本位で聞いてしまってすみません、ジャックォゥさん」
「……発音いいな……」
モヤモヤしながら基礎練習をこなしていった。
さて、もうそろそろ服部が来る頃だ。服部の思い人は一体、誰なのだろうか。
それも早く知りたくて、おれのモヤモヤが続いた。