日吉君の隣の席の彼女
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「あの、俺、ずっと服部さんのことが好きで……その、付き合ってください!」
「……好きな人がいるんです。ごめんなさい」
氷帝学園中等部では朝から新聞部の発行した新聞の話題で持ちきりだった。
正確には新聞というより、新聞の記事の方だが。
「あの服部さんに恋人の陰だって!」
「服部ってあの氷帝一の美女だよな?」
「今まで彼女に告白してフられた人数は星の数。断り方はいつも『興味がない』だったのが……」
「『好きな人がいる』って言ったらしい。誰かはわかんないけど」
こんな感じで噂されている。
そして、興味が募ると今度は誰なのかと予測し始める。
「相手は誰だろう?」
「たしか、彼女はテニス部の人たち、特にレギュラーと仲が良かった気がする」
「じゃあ、テニス部の誰かってことか……」
「もしかして……同じクラスの日吉若じゃねぇか?」
という訳で、俺と服部が話していると皆が注目してくる。
こんな面倒臭いことに自分が巻き込まれるとは……。
「……なんか、ごめんなさい」
「気にするな。お前は悪くない」
「アホベ先輩だったらわかるんだけど、なんで私でここまで大事になるんだろ?」
「格闘ショーで目立ってるからだろ。あと……」
『おい、日吉!藤子の噂はどういうことだ?今すぐ生徒会室まで説明しにきな!』
「この放送のせいでもある」
「なるほど」
この放送のせいで、ますます噂が絶えない。本当にアホベにはどこか逝ってもらいたい。
とりあえず、俺は生徒会室に向かった。
生徒会室の中に入れば、アホベが椅子に座っていた。少し不機嫌な様子で。
「来たな。早速、出回っている噂の真相を話してもらおう」
「噂も何も、俺と服部はただのクラスメートです」
「そうか。なら、お前が藤子と付き合っているが、お前の女遊びが酷すぎて、藤子は都合のいい女と言いふらし、さらには子を孕ませたというのも、全てデマなんだな」
話が飛躍しすぎだろう。俺はどれだけ最低な男なんだ。
「そんな噂信じないでください、アホベ部長」
「……お前、今“アホベ”って言わなかったか?」
「聞き間違いです」
危ない。噂がアホらしすぎて間違えた。
「さて、俺様は学園の混乱を収めなきゃならねぇ……行くぞ、樺地」
「ウス」
アホベと樺地がどこかに行ってしまったので、俺も教室へ帰ることにした。