小説
□銃使いの王子
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群青色の空に鳴り響いたのは、幾重にも重なり畳み掛ける銃声だった。
危なく俺の左頬をかすった。驚いたというより、身構えた。いつも俺をつけ狙っている町のギャングかと思ったのだ。だから俺の後ろに立っていたのが、まだ十代の少年だと知って立ち尽くしてしまった。
両手に持っている銃はどちらもワルサーだ。銃身(弾丸が通過する円筒形の部位)が、細長い拳銃といえばワルサーだ。撃ったときの空薬莢も体の左側に飛び出していたから間違いない。あんな危ない銃を持っている少年は何者だ? 間違って空薬莢が顔に当たったら熱いだろうに。
服装は割りとラフで、シャツにジーパンをブレイシーズ(サスペンダー)で止めている。銃を持っていること以外は至って普通の身なりだ。
「すばしっこいね君。」
金髪の少年が銃弾を装填しながら天使のように微笑んだ。右手にワルサーP38、腰のホルスターにしまったのはワルサーPPKと、どれだけ銃が好きなのだろう。
「何者だ。ガキが危ないもん持ってんじゃねぇぞ。親から盗んで来たのか?」
壁に身を隠しながら、冗談まじりに問いかける。
「ちょっと頼みたいことがあってね。リードって、殺し屋なんでしょ?」
俺は少し腹立たしげに怒鳴った。大体、何で俺の名前を知っている。
「誰がいつそう名乗った? ただ銃を集めるのが趣味なだけだ。覚えとけ、くそガキ」
少年は俺ではなく空へと銃を向けた。
「じゃあ、僕と一緒だね」
俺はぼんやりと少年の銃口の先を見つめる。俺の頭上には、老朽化したベランダ。まずい、撃ち落す気かよ!
少年の放った二発の弾は、ベランダの特にさびの目立つ部分に命中し、俺の頭上にベランダを落とした。慌てて、飛び出した俺を、少年は執拗に撃ってきた。
「殺す気か!」