狐落とし

気がつくと文机に
向かって広げていた
巻物の文字が薄暗くなり
見えにくくなっていた
自分の影のせいではない
「年ですかねぇ…」
昔は夜目でもよく遠くの
敵兵が見えたものだ。
ひとりごちりながら
座りぱっなし
だった膝に気を使い
のそっと立ち上がった。
鶯張りの軒に出ても
城の者の気配がない。
城の裏手に広がる森から
蝉の微かな鳴き声が
するだけだ。
左近は少し胸がざわつく
のを感じた。
自然に足が動く。左に曲がり三成の部屋に向かう。部屋の前にたどり着くと障子に手をかけてからりと開け放つ。
「殿っ!」
そこには三成の使っている質素な布団が今しがた
主が使っていたかのように真ん中だけ膨らんで残っていた。
その前に屈み込んで
触れるとまだ暖かい。
左近は舌打ちして
乱暴に立ち上がると
軒から庭に下りて
門に向かった。
左近の首筋に嫌な汗が
伝い落ちた。
ふいにそう遠くない場所で淡い光が明滅した。
「殿っ!そこにいたん
ですかっ!」
左近は反射的に叫び
駆け出しながら腰に
下げている刀を確かめ
るのは忘れなかった。

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