狩り人
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「へえ、コイツか…」
「うむ!凛々しい顔付きをしとるじゃろう?」
信玄公に厩(うまや)に連れられて見せられたのは、艶のある青毛の馬。確かに凛々しい顔をしていて、身体付きもいい。
だが………。
「………コイツだけ離れてんだな」
「なんせ回りの馬とも仲が悪くてな、怪我をする馬まで出てきよっては、コイツだけ離す必要があったのじゃ」
どんだけ凶暴なんだよコイツ。
優雅に干し草を食べている馬は、話からして、確かに気位は高そうだ。
「苦労してんだな、信玄公…」
「なァに!元気があってよいよい」
豪快に笑う信玄公はやはり懐が広いようだ。
改めて馬を見るが、一向ににこっちを見ようとしない。一心不乱に草を食ってやがる。ちょっとはこっち見やがれ。
「…それで、コイツの名前は…」
「うむ。大臥(たいが)という」
「…大臥」
そりゃ立派な名前だ、と呟くと、ピクッと反応した馬が漸くこっちを見た。黒く潤った、凛々しい瞳が俺を見据える。
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