逆説
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「―――失礼します」
すっ、と襖を開き、その部屋に入った。昼間であるため暗くはないが、明かりをつけていないから薄暗い。
その部屋の中央に座り込んでいる―――零の祖父、玄次郎。
「……来たか、馬鹿孫」
「……………」
「昨晩、連絡があった。―――ボンゴレの9代目が瀕死の重体で、倒れたらしいな」
「……はい。昨晩、私もそこにいました。申し訳ありません。阻止出来ず――」
「元から期待はしておらん」
「………」
零が自分の一人称を“私”と変えて敬語を使って、未だに頭を下げたまま静かに謝罪する。しかし、玄次郎は冷たく切り捨てた。
「中に入れ」玄次郎は胡座をかきながら言うと、零は黙ったまま中に入って襖を閉めた。正座を正すと背筋を伸ばして祖父と向き合う。
「ティモッテオの息子がやらかしたようだな」
「……詳細は掴めませんが、おそらく」
「ふん。あの小僧をのさばらせておいた奴の所為でもあるな」
「……あの方なりの気遣いだったんでしょう。心優しい方でしたから、息子を救おうとしたのでは、」
「たが、結局この様か」
「………………………なあ、祖父ちゃん」
敬語を取り去り、顔を俯かせる零。
玄次郎はその一連を、黙って見た。
「……教えてほしい。何で、自分なんか」
「……………」
「何で、自分やないとイカンのか」
「……………」
「“闇”の血を、受け継がなあかんかったんか……!」
ぎゅう、と膝の上で拳を握る。
髪に隠れて見えないが―――
泣きそうな声で、言った。
「“闇”の血統なんか……滅べばよかったんや」
「―――ならばお前は“あの時”に死ねばよかったと?」
「、違う!!」
ガバッと顔を上げた零。
「こんな血がなかったら、みんな、死ぬことなんかあらへんかったんや………!」
争うことも。
殺し合うことも。
蔑み合うことも。
憎しみ合うことも。
この“血”がなければ―――全て、無くなったのに。
「いつまで自分は……ッ『あいつ』を憎み続けりゃエエんや…!」
怖い。
戦うのが。争うのが。憎むのが。
恐ろしくて―――堪らない。
再び俯いてしまった零に、玄次郎は短く溜息を吐いた。
「……昨晩、ボンゴレ10代目候補の沢田綱吉がティモッテオの息子と戦うことを決めたらしいな…」
「……………」
「その時の話しを、聞かせなさい」
「……………沢田、先輩……」
ふと目を閉じて脳裏に浮かぶのは、
強い目になった、彼の姿。
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