黒き憂鬱

□第一章 弐話
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美形姉弟の転校



 昨日の双子の報告の翌日。
 別にあいつが此処に居るからと言って、まだまだ何を仕掛けてくるというわけでもないだろう。仕掛けてきたとして、そんなに騒ぐ程の事でもない。
 夜玖からしてみれば、「あいつがこの学校に居る?だからなんだ」という話だ。
 まぁ少し警戒はしておくし、動きがあれば楽しいと感じるのも確かで、動きがあろうが無かろうが結局はどっちだっていいのだ。

「昨日転校生が来たばかりだが、今日も転校生が居る」

 転校翌日から既に孤立している夜玖の耳に届いたその声は、夜玖からしてみれば半分動でもいい事半分聞き捨てなら無い事だった。
 本当に来たのかあの馬鹿姉弟。内心そう毒づいて、夜玖は小さく溜息を吐いた。
 隣に座る綱吉が不思議そうに見てきたが、それに気付かないフリをした。因みに、綱吉の逆側は窓なのでそこに他の生徒は居ない。

「入ってきなさい」

 相変わらず偉そうな口調の教師の言葉を聞き流し、普段ならどうでもいい筈の転校生だがしかし今回はみすみす野放しに出来ない状況故に、ドアを見た。
 まず最初に入ってきたのは黒髪の女子。それがまぁ普通に見れば美少女だからか、男子が煩いくらいに歓喜した。
 次に入ってきたのは黒髪の男子で、同じく美男子ゆえに今度は女子が黄色い声をあげた。
 昨日は夜玖に黄色い声をあげ歓喜していたくせにまぁ結局は美形であれば誰でも良いという事だ。
 何と馬鹿馬鹿しく愚かしい者たちか。

「お初にお目にかかります、白刃矢雪音と申します。今日からこのクラスでお世話になりますので宜しくお願い致します」

 無駄に恭しく丁寧な挨拶をし、変わらず恭しく頭を下げた雪音。
 その動作は優雅にも見えるくらいで、女子ですらそれに見惚れていた。

「・・・白刃矢海音。言っておくが、姉貴に手出ししたら容赦しない。それから――お前達と宜しくするつもりは無い」

 姉とは逆に刺々しい口調と不遜な態度で名乗りを上げそう言った海音。
 女子はクールだ何だと更に黄色い声をあげているが、男子からはその態度に反感を買ったようだ。まぁ当然と言えば当然だが。
 正直、ちょっと夜玖と似ている部分があるかもしれない。まぁクラスメイトの前では夜玖は猫を被りまくっているのでクラスメイトからすれば似ても似つかないが。
 多分彼の第一印象はこうだ。「シスコン中学生」。実際シスコンなのだから仕方有るまい。
 義理というにはあまりに似すぎている姉弟だからもしかすると双子に思われてしまうかもしれないが、一応義理の姉弟だ。

「あ、」

 と、教師が二人に席に着くよう言い渡そうとした途端に、雪音が声をあげた。

「無いとは思いますが、夜玖様に近付くのはよしとして、危害を加えたら―――殺しますよ?」

 にこりと笑って何を言うんだ。
 教室中が固まってしまった瞬間だった。
 目立つ行為はするなといったのに全く、と夜玖は思うがそもそもそれ以前の問題である。
 隣に座る綱吉は怖がるというより何かまたショックを受けたような表情になっているし、また面倒臭い事になりそうだ。
 折角昨日ので質問攻めは終わったと思ったのに、今日また、彼女のせいで質問攻めに遭うかもしれない。
 席を指差そうとしたままの格好で固まってしまっている教師の顔は真っ青で、少し憐れに・・・など思う筈は無かった。



*   *   *



「雪音・・・目立つ挨拶は止めろ」
「・・・あら、牽制したんですよ。これで夜玖様が危険な目に遭われる可能性は減るでしょう?」

 休み時間に入り、雪音に声を掛けて教室を出た。
 勿論弟の海音の方もついてきたが、別にそんな事はどうでもいい事でついてきてもついてこなくても同じ事だ。
 彼は姉が関わる事で無い限り滅多に口出しはしない。
 一応雪音の方もブラコンなのだが、あまりその様子が出る事は無いしクラスの者どもにそれがバレる事もまず無いだろう。
 まぁそれは兎も角。

「・・・俺は別に虐められようが虐められまいがどうだっていいんだがな。やりたいならやらせとけばいい」
「駄目です。夜玖様は仮にも“ボス”なんですから。ボスをお守りするのが私達部下の役目です」

 心配性すぎるところが偶に瑕だが、基本は真面目でよく働く信頼の出来る部下だ。
 過保護なところが無ければ多分、夜玖の彼女の信頼度は部下の中でもトップスリーに入るだろう。過保護なところが無ければ、だが。
 多分彼女自身、敏いので鬱陶しがられている事は解っているのだろう。
 だが、何故か止めない。理解の深い子なのだから、止めてもおかしくは無いのに。
 そこに理由も無く彼女が動く事はしないため、そこには何らかの理由があるのだろうが傍迷惑な話だ。
 勿論、尊敬の枠というだけで彼女が此処までしたりする筈も無い事はブラックのメンバーの過半数が知っている。
 海音の話では「それが姉貴にとってのもう一つの試練」らしいのだが、正直さっぱりだ。何故夜玖を慕い守る事が試練なのか。
 依存されているわけではない。それは本人では無い海音や夜玖、他のメンバー少数も解っている。

「不思議だな、お前ら姉弟は・・・」

 あれから何も喋らず夜玖の傍でじっと立っていた雪音と海音(そもそも海音は教室を出てから一言も喋ってないが)。
 その間に一人の世界にどっぷり入ってしまったらしく、気付けば思考の一部を口に出してしまっていた。
 雪音は一瞬きょとんとした後にっこりと笑ってこう言った。

「・・・・・・私と海音は、お互い依存して生きていますから」

 夜玖の思考から外れているようで外れていない回答。
 彼らの“不思議さ”はお互いの依存から来るものだから、外れてはいないのだ。
 珍しく驚いたような表情をしていた海音も小さく息を吐いてこう言った。

「それが俺たちだ」

 その回答に思う。
 やはり、彼らは不思議だと。


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雪音と海音の転校編。
主人公は夜玖ですが、夜玖は共通の主人公です。つまり、私と清ちゃんが作った主人公です(まぁ設定考えたのほぼ清ちゃんだけど。私はそれの手伝いをしただけ)。
私「だけ」の主人公は雪音――と少しだけ海音なんです。
・・・あれ、よく解らない話になったぞ。
つまり、雪音と海音は私の中で副主人公という事です。
勿論、清ちゃんには清ちゃんの主人公が居ると思います。それが専ら夜玖のみかもしれませんが。

文中に出てくる「ブラック」っていうのは夜玖が纏める組織というか・・・。
一応「アレ」なんですが、まぁその内解るんじゃないですかね。
もう解ってる方いらっしゃりそうですが・・・。



(書き手:管理人B)



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