黒き憂鬱

□第一章 五話
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レイニーデイ・ナイトメア



朝日が教室にいない。

それは俺を焦らせるには充分な事実だった。

兄である夜玖の元へいったのかと思いきや、2-Aは既に施錠されていた。
図書館、保健室、他の教室と探し回っている俺を、やっと見つけたと言わんばかりにこちらに走ってくるクラスメイトの言葉に、俺は後悔した。


さっき沢田朝日が上級生に屋上に連れていかれた、と。


ひどく不安そうな顔で彼女は告げた。


「無事で居てくれよ朝日!」


目を離さなければ良かった!
ざわざわと騒ぐ胸に更に不安を煽られながら、階段を駆け上がる。


力任せに押した扉の向こうに居たのは、…


±


「よう、夜玖」


学校から帰った夜玖を呼び止めたのは、私立沖津高校の制服を着た夕焼け色の青年だった。


「夕日か。それで、頼んでいた件は終わったのか。」

「もち!平和野紫筑のことは全部調べあげた!それでさあ、そいつの行動、なーんか可笑しな点があるんだよねー」

「可笑しな点?」


談話室のソファに沈んだ夜玖を確認すると、夕日は立ったままゆっくりと話始めた。


「…一年前、親友の邪魔になる者を消そうとして、全校を巻き込んで制裁をした少女がいた。制裁の標的になった生徒たちは全部で5人。内2人は自殺、3人は転校。全員未だにトラウマを負っている。告発はその3人からだが主犯の名前は公開されなかった。被害者からの告発で、全ての原因が自分だと知って思い詰めた親友は、主犯の少女の行動への責任を取る、という形で飛び降り自殺した。これが一年前京都で起きた、私立三奈月中制裁事件。」


そこまで言うと、自分も夜玖の向かいに腰かけ、ローテーブルに置いてあったココアに口をつけた。


「この事件内容、聞き覚えない?」

「今の並中の状況と同じだな。となるとその事件の主犯は平和野紫筑か。」

「その通り。平和野の名前だけは一般人に対しては充分過ぎるくらいのプロテクトがかかってた。彼女の親、京都では有名な議員らしいよー。」

「議員の娘に不祥事とくれば隠蔽か。それで、可笑しな点があると言っていたが。」

「ああ、うん。普通さ、自分が全校使ってまで尽くそうとした親友が自殺してんのに、また"親友"に同じ事出来るのかなって」
そんなことする時点で普通じゃあないけどさー。


「そこまで執着するって事は失ったとき相当なショックだったはずじゃん?だから俺としてはショックで記憶喪失かなって思ったんだけど」

「記憶喪失。」
有り得なくはない。
となると、平和野紫筑は無意識にあの方法を選択しているという訳か。


そう思うのとほぼ同時に携帯が震える。
通話ボタンを押すと、蓮矢の切羽詰まった声が聞こえた。


「夜玖!!朝日が!朝日が次の標的にっ」


するりと携帯が手のひらから抜けた。


だから雨の日は嫌いなんだ
(そんな声が聞こえた気がした。)



(書き手:管理人A)



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