黒き憂鬱

□第一章 参話
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ある蝶のひと羽ばたき


華空史陽は人気者である。
それは彼女の人当たりの良い性格であったり、いざという時に頼りになる心強さであったり、そんな完璧に見える彼女が一切気取るような態度を取らなかったり。
つまりは、素敵な外見内面全てを含めて、多角的に存在が人気を博しているということである。


そんな素敵な彼女は無論どんなグループにも属していない。
それは彼女に敵が居ないため、または、余計な小競り合いを防ぐためだ。


ところで、並盛中には給食というものが存在しない。
それは必然的に昼食を各自で用意するということであり、生徒達は大抵属しているグループごとに昼食を取ることになる。

当然、どのグループも人気者の史陽と食べたいはずだ。それが原因で諍いも起きていた。
"起きていた"と過去形で表したのは、今はそのようなことは起こっていないからだ。
何故かというと、生徒間で『史陽は約束した順番に昼食を一緒に食べる』というルールが他でもない史陽の手によって提案されたため、諍いを起こす必要がなくなったのだ。


前置きが長くなったがそんな訳で、本日の史陽は2-Aの沢田綱吉以下三名と昼食を取るのである。


±

先程雪音と話したことでどこか安心したような、そんな表情の史陽は別行動していた紫筑と合流した。


「あ、史陽ちゃん!こっちこっち」

史陽を発見した途端に満面の笑みを浮かべた紫筑は史陽に向かって大きく手を振り、史陽も軽く手を振ってそれに応えた。

「あぁ、紫筑、ここにいたのね。そういえば今日は沢田君達とお昼の約束をしていたのだけれど、いいかしら?他の人とも食べた方があなたの友人も増えると思うし…」

「そうした方が史陽ちゃんは嬉しい?」

「?ええ」

「なら私もっとお友達つくるね!ほら史陽ちゃん、早く行こう?」

史陽は紫筑の突飛な質問に驚きつつも、返事をし、紫筑に並んで歩き出した。
そんなことを私に聞く必要があるのかしら、と内心思いながら。


±


いつも彼らのいる屋上の扉を開くと、もうすでに3人がいた。

「沢田君、遅れてしまってごめんなさいね」

「あ、そんなの全然大丈夫だよ!あれ、その子は?」

初めて会う紫筑の姿に綱吉を含めた3人は不思議そうな顔をする。

「あぁ、彼女は平和野紫筑っていうの。私のクラスに転入してきたばかりなの。この子もご一緒していいかしら?」

「うん、構わないよ。平和野さん、よろしくね!」

「紫筑で良いよ。えっと、沢田、君?良かったら私とお友達になってくれませんか?」
私まだ友達少なくて、と少し困った顔をしながら笑うと、その愛らしい様子に少し見惚れながら綱吉と紫筑は握手を交わした。


「あっ、そうだ。俺、まだちゃんと名乗ってなかったよね?俺は沢田綱吉。みんなにはツナって呼ばれてるからそう呼んでくれたら良いよ。で、そこの銀髪の人が獄寺隼人君」
綱吉が獄寺を指し示す。

「獄寺だ。十代目に何かするようなら、果たす!」

お決まりの台詞を吐き、紫筑に警戒心を剥き出しにする獄寺。
そしてその手にはダイナマイトが。

「うわぁ!ちょっと、獄寺くん!ご、ごめんね、紫筑ちゃん、驚かしちゃった?」

「うん、少しだけ。獄寺くん、よろしくね」

そう言って手を差し出すが獄寺はその手を取らず、紫筑は残念そうな顔をして手をひっこめた。

「それであっちの黒髪の人が山本武。山本は野球部のエースなんだよ」

「よろしくな、紫筑!」
「うん、こちらこそよろしく!」

こちらはちゃんと互いに握手を交わした。


「それじゃあ自己紹介も終わった事だし、食べましょうか」

「そうだね」

そう史陽が声をかけると皆それぞれ弁当を取り出し、ご飯を食べ始めた。

「史陽ちゃんのご飯、おいしそうだね〜」

「貴女のもおいしそうよ?紫筑」

「本当?今日のは自分で作ったから褒められると嬉しいな」

にぱっ、と効果音がつきそうなほど笑顔になる紫筑。
これだけ見れば、ただの無害そうな女の子なのに。と史陽は思い、可愛い娘だな、と男子3人は思ったのだった。



束の間の平穏。
(まさかこれが分岐点、なんて。)

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書いていませんが史陽と紫筑のお互いの呼び方が変わっているのはこの場面になる途中で
「ところで平和野さん」
「あ、紫筑で良いよ」
「じゃあ私も史陽で構わないわ」
みたいな遣り取りがあったからです。



(書き手:管理人A)



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