謙かす

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「わたくしの うつくしきつるぎ、あいしていますよ」


謙信様―――!
そのお言葉を掛けて下さいましたこと、どんなに嬉しかったことか。
私がどこかの姫であれば、そのお言葉を喜んでお受けすることができるのに…。
私の喉の奥から、胸の奥から謙信様への想いが溢れてきてしまいそうで、大変恐ろしくもありました。

私はつるぎ。
謙信様のお側にいることを許された、謙信様を守る為のつるぎ。

私はあの御方の為ならどんな任務をも遂行する。
たとえ、この命が尽きようともお守りすることが出来るのなら喜んでこの命をも捧げましょう。

私は忍。
使える主に恋をするなど、忍びとしてあるまじき行為。
本来であれば私のような者がお側にいるべきではない。



「わたくしの うつくしきつるぎ、もっとちかくへ…」

謙信様―――。

これは、愛してはならない御方を愛してしまった私への罰ですか?
私は何があろうとも謙信様のお側でお守り続けるとお誓い申し上げました。
しかし、そのお言葉は「つるぎ」としてではなく、お側にいてもよいという意味。
嬉しくないはずがない。



いつか前田慶次が言っていた。

『恋はいいもんだ』

果たして本当にそうだろうか?
私は苦しくて苦しくて堪らないのだ。
あの御方を愛することが、愛されることが苦しくて堪らない。



いつか猿飛佐助が言っていた。

『忍びに向いてないんじゃない?』

そうかもしれない。
私のこの想いは、私のそしてあの御方の命を失うことに繋がるかもしれない。
分かっている。



それでも私は願わずにはいられないのだ。
―――あの御方の愛を受け入れることを許されたいと・・・。



END
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