※現パロ 高1





「朝飯、食ってい?」
「今、朝休みだぞ」
「寝坊したんだ。家で食べてたら学校間に合わねーしさ」
「まあご自由にどーぞ」
「ん、」

こくんと軽く頷き、鞄から菓子パンを取り出す三之助。眠そうな顔で袋を開けると勢いよくそれにかぶりついた。

「お前、いつもそんなの食ってんの?」

三之助はもぐもぐと口を動かしながら「そうだけど、なんで?」と小首を傾げる。

「甘くねーの?それ」

三之助が食べている菓子パンは大きくて丸いデニッシュに砂糖がかかっているやつで、普段甘い物を食べないおれからしたら考えられない朝飯だった。

「甘いよ。だからうまいんじゃん」
「へー。おれにはわっかんねえなあ」
「一口いる?」
「くれ」
「わかった」

頷くと三之助は菓子パンをそのままおれに差し出した。差し出したって言っても手渡すようにじゃない。ずいっとおれの口元へ差し出したのだ。

「作、口あけて」

さっきと変わらず眠そうな三之助だが言ってることとやってることがとんでもねえ。これじゃまるでおれが三之助に食べさせてもらうみたいじゃねーか。

「ほら。作あーん」
「何がしたいんだお前は」
「え。一口食べたいんだろ。だからほら、口開けて」
「あほかお前。んなこっ恥ずかしいこと出来るか」
「恥ずかしいの?」
「当たり前だ」
「作はほんと照れ屋さんだな」
「黙れさんとか言うな」

三之助は「はいはい」と菓子パンを自分の口へ運ぶ。もしゃもしゃと粗嚼する三之助に小動物みてーだなあと思いながら、こみあげてきた眠気に欠伸をすると「隙あり」と三之助の声と共に菓子パンがずいっと口の中に入ってきた。

「ぐぁ、あ?」
「作、噛みきって」

言われた通り噛みきると菓子パンはそのまま三之助の口へ。何事もなかったかのように菓子パンを食べる三之助を呆然と見ながら、とりあえずパンを粗嚼する。ごくんと飲み込むと、それを確認した三之助は「も一口いる?」と普通に真顔で訊いてきた。

「……こっ恥ずかしいからやめろって言ったよな」
「言ったけど。別にいっかなと思って」
「よくねえよ。何てことしやがるんだ」
「怒んなよー。ちょっと食べさせただけじゃん」
「ちょっとって、おまえなあ」

その時、口端に三之助の指が触れた。なんだと思った時には指は口から離れて、三之助の口へ。

「ん、うまい」

何が起こったのか分からないおれに対し、満足気な三之助。おれの顔はさぞかしきょとんとしてたんだろう。三之助はおれの顔に微笑する。

「作の口端に食べカスついてたんだ」
「食べカス?」
「うん。だから食べてあげた」
「た、食べてあげたって、」

「うまかったよ」と笑う三之助に言葉がない。あわあわと口が動く。とんでもねえ。目の前にいる男はとんでもねー奴だ。

「作の食べカスの方が甘かったな」
「は?」
「俺が食ってんのより作の口についてた食べカスの方が甘かったしうまかったんだ。なんでだろ。あ、これって、」

「作の味?」と言ったが瞬間、三之助の頬に右フックをくらわした。華麗にきまった右フックに「ごふぉ!」とのけぞる三之助。

「何すんだよ!」
「っせえ!お前が悪い!」
「なんで?意味わかんねー」
「わかれ!この無自覚が!」
「わかんねーよ、無自覚ってなんだよ」
「自分で考えろアホ!」


20100830



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