一緒に食うと飯がうまくなるヤツっているだろ。好きなヤツだったり友達だったりさ。例えて言うならお前だよ。今だって、飯うめえしよ。この前さ、その逆があったんだよ。え、誰って?池田だよ池田。たっまたま、一緒に飯食う機会があったんだ。ほら、前に左門と三之助をお前に預けたことあったろ。俺が委員会で左門と三之助は委員会休みだった日。アイツら二人ほっとくとどこ行くかわかんねえからって預けたじゃん。そうそう、あの日だよあの日。

あの日さあ、修繕に結構時間くっちまって全部終わったのが夕飯の時間ギリギリだったんだ。や、途中で飯だけ食いに行って作業再開でもよかったんだけど。キリいいとこまでキリいいとこまでと思ったら、結局最後までやっちまって。終わって、腹も減ったしさ。急いで食堂行ったんだ。したらさ、入り口でバッタリ出くわしちまって。誰に?だから池田だって。何回も言わせんなよ。アイツったらさ、俺の顔見た途端にすげえ嫌そうに顔しかめんの。すっげえムカツク。何様だよアイツ。俺だって嫌だっつの。で、我先にと食堂入ってA定食頼んだんだ。主菜は肉味噌和え。よく覚えてるなって?当たりめえだ。放課後、福富に聞いた時から楽しみにしてたんだから。そしたらさ、俺の声に被せるようにA定食頼みやがんだよアイツ。真似すんなって怒鳴ったら、お前が真似すんなって言いやがる。胸クソ悪いったらねえよ。言い返したら言い返されるし、それに言い返したらさらに言い返してきやがるし。

まあ、とにかく腹減ってたし、定食受け取って、気取り直してちゃっちゃと飯食おうとしたんだよ。時間が遅いだけあって中はガラガラ。腹減ってたし早く食いたかったから、俺はてっとりばやく一番手前にある席に座ったんだ。したら何を思ったか、俺の前に座るんだアイツ。ガラガラだぞ?俺とアイツ以外誰もいねえんだぞ?完全に嫌がらせだと思って文句言ってやった。そしたら「アンタがどっか行ってください」だとよ。腹たったから足蹴ってやった。蹴り返してきやがったけど。アイツ、俺の足蹴るだけ蹴ると、澄ました顔して食いはじめんだよ。もうこんなヤツ本気でほっといて俺も食おうと思って食い始めた。

そしたら変なんだよ。味がしないんだ。いや、味はする。するんだけど、ちゃんと味わえないっていうの?前向いたらさ、池田の顔が嫌でも目に入るんだ。ってことは池田の目には俺が入ってるってことになるだろ。そう考えたら、なんか、すごく食いづらくなってさ。今まで自分がどんな風に飯食ってたかとか全部わかんなくなっちまって。俺は池田の目にどう映ってんだろうと思ったらさ、体に変な力が入っちゃうんだ。自然にできねえんだよ。わけ分かんねえだろ?折角の肉味噌和えなのに変に力んじまって、全然美味くなくてさ。もう最悪。これってぜってえ池田のせいだと思わねえ?

三之助や左門と食う時もお前や数馬や孫兵と食う時も今言ったような事になったことねーし、あの食満先輩と一緒に食った時でさえそんな事なかったんだぞ。ホント意味わかんねえよな。しかもさ、俺がこんなめになってるっつーのに、池田の野郎、黙々と食ってやんの。ムカツク。てめえのせいでこっちは飯がまずいってのに。一緒に食うと飯がまずくなるヤツって本当にいるんだなって、つくづく思ったわ。



魚をつつきながら怒り心頭に荒っぽくしゃべる作兵衛。彼が今しがた話した内容に呆れつつ、どう言ったものかなあと頭を巡らした。

まあ、ここはストレートにいくべきか。自分が言ったことの重大さ、感じたことの意味に一切気づかず、今は魚の骨をとるのに苦戦している作兵衛に苦笑しながらゆっくり口を開く。


「それは緊張だと思うな」
「あ、緊張?」
「作兵衛は池田に緊張したんだよ」
「はあ?なんで俺が池田に緊張しなくちゃいけないんだよ」
「意識してるから」
「は?」
「わかりやすく言うと、好きだからだよ」
「………なに言ってんのお前」
「池田に見られてると思うと、うまいこと体が動かないだなんて、意識して緊張してる証拠じゃない」
「んなわけないだろ。池田だぞ」
「池田だからだよ。そんな風に緊張したの、池田が初めてなんだろ。というより、池田しか有り得ないんだよ。作兵衛は池田のことが好きなんだから」

な、と笑ってみせると、終始ぽかんとしてた顔をみるみる赤く染め、同時に鬼のような形相になる作兵衛。うわ、赤鬼だ。

「てめえ藤内。ふざけたこと言ってんじゃねえぞ」
「ふざけてないよ。事実だし」
「認めねー認めねーぜったい認めねー」
「お好きにどーぞ。どうせ僕には関係ないしね」

それに、今の話だと向こうもその気あるみたいだから、作兵衛が認めるのも時間の問題だし。

「俺が池田をって、んな馬鹿なことあるわけねえだろ」
「あ、後ろに池田が」
「っ!?」
「うっそー」
「………てめえいい加減に、」
「あーおいしかった。ごちそうさまでしたー。じゃあ作兵衛お先」

立ち上がるとこわい顔で睨みつけてくる。そんなこわい顔しないでくれないかな。

「言い逃げだぞ藤内」
「僕は作兵衛を応援したいだけだよ」
「応援って、」
「あと人の恋路って見てて面白いし」
「俺の恋路は見せ物じゃねえぞ!」
「恋だって気づいたんだ」

自分でも驚いたのか、いろんな意味で顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせる作兵衛。鬼の目にも涙、もとい鬼の心にも恋慕。なんてかなりつまらない事考えながら、固まって動かない作兵衛に付き合い、もう少しここに残るかを考える。ちょっと迷ったけれど、明日の予習もあるからと放っておくことに決め、僕はゆっくりと出口へ向かった。


20100916


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