※現パロ、中三





もうもうと立ち上がる湯気にぎゃあぎゃあと騒がしい声。そして、じゅうじゅうと焼ける音。


焼肉をしようと言い出したのは誰だったか。そういや左門が肉だ肉だと煩かったっけ。共働きで両親の帰宅が遅いという三之助の家に集合して、みんなで野菜切ったりプレート準備したり。わりと和やかな雰囲気だったと思う。こうなったのは鉄板が温まった途端だ。

とにかく、騒がしい。


「肉だ!肉だ!肉だー!」

左門が肉をばっしばっし乗せる。ひっきりなしに乗せる。とにかく乗せる。それに反応するのが藤内だ。


「肉には焼き加減とか色々あるって、さっきから言ってるだろ!なんでもかんでも乗せるなあああ!」


肉を引っくり返し、キャベツに油をかけ、玉葱を引っくり返す藤内。その姿はさながら焼肉奉行。焼き方や焼き加減に煩く、(主に左門に)わあわあ言いながら焼いている。


「さっきから僕の肉、スジばっかなんだけど。かたっ、固いよこの肉!」


肉を噛みきろうと必死に歯をぎしぎし鳴らしているのは数馬だ。おれの皿にある中から一枚、鉄板の中でも数馬に近いとこにそっと置いてやる。ありがとう、作兵衛と涙ぐむ数馬に何も言えない。


「さあ、みーちゃん。このキャベツは新鮮で美味しいよ」


毒虫が入った籠にキャベツやニンジンなど野菜類を入れて微笑んでいるのは孫兵。その野菜はおれ達が金をだしあって買ったおれ達が食うべき野菜であって、みーちゃん達の餌ではない。まあ、今更言ってもしゃあねえから誰も何も言わないが。



ったく、みんなうるさいったらない。ちょっとは静かにできねえのかよ。
喧騒の中、皿にとっておいた肉を食べようと箸をやる。と、肉がなかった。さっき塩ふっておいたジャガイモさえない。焦って隣を見ると、三之助が「ジャガイモうめー」ともしゃもしゃ口を動かしていた。おれの視線に気づいたのか、こっちを見てきょとんと首を傾げる三之助。


「どしたの作。そんな熱い目線で見られても困っちゃうんだけど」
「いま食ったジャガイモ、おれの皿に乗ってたやつじゃないよな?」
「作のだけど」
「おれの皿にあった肉、食った!?」
「もちろん」
「てめえ何勝手に食ってんだ!返せおれの肉とジャガイモ!なんで食ったんだよ!?」
「そこに肉があるから」
「かっこよく言ってんじゃねええ!鉄板にたくさんあんだろ!それを食え!」
「だって作の皿に乗ってるヤツうまそうなんだもん」
「次からは食うなよ!ぜったい取るなよ!」
「わかった」


ああもう油断ならねえ。溜め息ついて鉄板から肉をとると、藤内に怒鳴られた。


「作兵衛それ引っくり返したばっかり!こっち食べて!」


あまりにもの剣幕に言われたとおりの肉を黙って皿にとる。こわすぎだろ藤内。
数馬が「またスジだよ固いよー」と涙ぐんでいるので焼けてそうな肉を鉄板の数馬に近い箇所に置いてやり、さあ食べるぞと皿に箸をやると、無かった。今取ったばかりの肉があらかたなく消えていた。隣を見ると、案の定もっしゃもっしゃもっしゃもっしゃ口を動かす三之助。


「肉うめー」
「さんのすけええ!いい加減にしろよてめえ!鉄板から取れ鉄板から!」
「作に食われるのはイヤだよーって声が聞こえてきたんだ」
「言い訳にもなってねえ!肉がしゃべるかこのアホが!」
「まあまあそう怒鳴らず」
「怒鳴りたくもなるわ!あー、もう!疲れた!」
「あらら」
「つーか、みんなうるさすぎ。見てるだけでしんどいっつーの!」


肉だ肉だと叫ぶ左門、そんな左門を叱ったり肉を焼いたりと忙しい焼肉奉行藤内。またスジだよと涙ぐむ数馬に、餌をやる幸せそうな孫兵。何くわぬ顔で横どりする三之助。


これが疲れずにいられるか。誰かこいつら止めてくれほんと。


「まあまあ。みんながうるさいのはいつものことじゃん」
「言っとくけどお前もだからな」
「え、なんで。俺のどこがうるさいの」
「精神的にうるさいんだよ」
「ががーん」
「擬音をしゃべんな擬音を」
「ショック加減を表現してみた」
「あほか。あー……帰りてえ」
「そんな事言ってー、楽しくて仕方ないくせに」
「うるさくて仕方ねえよ」
「またまたー」
「黙れ三之助」


睨みつけると「はいはい」と笑われた。こいつ、まじむかつく。
気を取りなおし、しゃべってる間に藤内が置いてくれていた肉を口に入れる。うん、うまい。


まあ、三之助にはああ言ったけど。


こいつらが静かなのも調子狂うし。
こうして騒いでる中にいるのは、やっぱり楽しい。うるさいけど、やかましいけど、賑やかだ。


「肉!肉!肉ー!!」
「なんでもかんでも乗せるなああ!」
「固っ、どうしてスジばっかりなんだよ……」
「みーちゃーん。おいしいかい?」
「作のニンジンいただきー!」



まあ、多少賑やかすぎな気もするが。


20100919


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