「あれ?宇佐美さん?」
急ぐさくらを呼び止める、どこか抜けた声。
教室までこれほど時間がかかることなんて全く知らなかったさくらは、正直少し参っていた。
知った声にふっと体の力を緩める。
「沢田くん…、授業、は?」
「オレのクラス移動教室っぽいんだけど…聞いてなくてさ。どこ行ったらいいのかサッパリ。…宇佐美さんは?」
さくらは、私は…と言いかけて口を閉じる。
堂々とは言えない。
校内で迷ってしまったなんて。
「ねえ宇佐美さん、宇佐美さんて頭良いんだよね?」
「…え?」
「こないだのテスト。十位まで張り出されてたから」
一位ってすごいなって思って。
はにかむ沢田にさくらは少しだけ笑う。
沢田はそんなさくらを確認してから悪戯っぽく言った。
「いつも勉強してるんだし…今日くらいサボっちゃわない?」
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