Story
□In a cadenza
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「成る程」
半月前の新聞を読み終えて、ふぅっとエイネイが脱力する。
「何が成る程?」
背もたれにすっかり背中を預けるエイネイの脇から、読めもし無い新聞を覗き見る様に身を乗り出すシィリエ。場所を少し譲ると、レンズの隙間から睫毛が何度か瞬きするのが見えた。
「<度重なるウィリーの被害>」
ひんやりした紙面の見出しを指でなぞる。
「兼ねてから森を騒がせていたウィリー。
半年前に新たな被害者が出たことをキッカケに、観光局はついに森からウィリーを追い払うことを提案。先月三日、シルヴ魔術師協会に魔術師の派遣を要請していたことを明らかにした」
次はこっち、とリアルな挿絵がついた本を指先で突く。
「ウィリー伝承は15年ほど前に森で死体が発見されたことを皮切りに囁かれる様になった、比較的新しい伝説である」
「…15年?」
「数字を真に受ける必要は無いけど、まぁ今に始まったことじゃないってことは確かそうだ」
「それが今更に取り沙汰される…しかも今まで動かなかった観光局の依頼で」
うわぁきな臭ぁい、と二人で顔を見合わせて眉根を寄せる。
「埃ってのは叩けば落ちるものだからな」
何が起きてたか解りゃしない、と吐き捨てながら新聞の隅に載っている名前のリストを撫でる。
森で発見された体の持ち主達…記者の作為か偶然か、リストに並ぶ名前は最初の犠牲者とされる者も含めてどれも男性名だ。
それにしても…
エイネイは不快そうに鼻白み、険しい顔を悟られない様にごく自然な動作で開きっぱなしの本を閉じる。
この新聞が二週間前のもので協会への依頼が前の月の三日、その間は約一月で魔術師団の到着が三日前…
シルヴからカデンツァまで馬を休まず必死に飛ばしても10日、大所帯ならその倍は見た方が無難だろう…事実エイネイ達はシルヴから18日かけてやって来ている。
依頼から到着までを逆算して、記事の出回る七日前には出立していたとすれば。
頼の受理に十日前後掛けるのが普通な魔術師会だから、それはスピード派遣に違いなく。
…その腰の重さに苦湯を飲まされてきた身として、苦情の一つも申し立ててやりたい。
エイネイは異常にしか映らない迅速さに、思わず拳を握ったまま笑った。
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