短編

□ゆずる。
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ゆずる。




 卯の花も咲き揃い夏近しを感じる今日この頃、お母様におかれましてはますますご健勝のことと存じます。

 お母様たってのお願いで、一族の経営する全寮制の学校へと進学して早2年。
入学当初はカルチャーショックのあまり幽体離脱したものですが、気付けばもう中弛みの高校2年生…過ぎ去る時の早さを痛感します。

 さて。
今回定期報告の日にちを待たずお手紙を差し上げましたのは、折り入ってお話ししたいことがあるからなのです。
外部生である僕に衝撃を与えた数々の出来事、その代表とも言うべき生徒会に僕が副会長なる役職で就任する運びとなりましたのは、先の報告でご存知かと思います。

 薔薇咲き乱れ艶やかな香が立ち込める魅惑の世界において、カリスマと名高いお母様。
そのお母様に申し上げることではないと重々承知の上で、弱音を吐く僕をお許し下さい。


 始まりは今月初め、一学年下に季節外れの転入生がやってきたことにあります。
イマドキ何処で売っているのか、ダサい眼鏡とモサモサでボサボサの鬘…一目見て直感いたしました。

これが、いつだったかお母様が熱心に教えて下さった『王道主人公』なるものだと。

 果たして僕の直感は真実であったのです。
お母様には説明するまでも無くお分かりかと思いますので、割愛しながら簡単にお話しいたします。
仔細は定期報告の折に証拠写真を添付のうえメールさせて頂きますので、今はどうかご勘弁を。

 まず双子会計が転入生に興味を示し、無口わんこ書記を引っ張って食堂へと現れました。
そして最早お馴染みの『どっちがどっちですかゲーーーーム!』を転入生にしかけ、あっさりと見分けられてしまったのです。
その際、双子は大喜びで転入生に抱き着き『僕達、君の事気に入っちゃった宣言』がなされた事を明記しておきます。
僕には理解出来ませんが、双子には双子なりの深い葛藤と苦悩が有ったということでしょう…さすが王道、さすが双子。

 さてここで無口わんこ書記の出番です。俺のターン!ドロー!
転入生と双子が一方的に熱い抱擁を交わす中、何を思ったか書記は転入生と双子を突然引きはがし、背後から転入生を抱え込みました。
その際、片言で『これ俺の宣言』がなされたことを明記しておきます。
僕には理解出来ませんが、きっと犬ならば分かる何かが転入生には有るのでしょう。さすが王道、さすが犬。

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