短編

□靴箱に花
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 俺が、いつだって損をする。

 俺がそんな風に思っていると知ったら、きっと苛立ちを感じる奴だって多いんじゃないだろうか。
 自分で言うのは難だけれど、俺は他人より頭一つ飛び出した存在だと思う。
スポーツマンらしく爽やかで整った容姿、成績は学年で10位以下に落ちたことが無いし、部活では先輩を押し退け一年にしてレギュラー、実家は金持ちだ。

順風満帆。
不満?生まれてこの方、感じたことが有りません…と笑顔で言ってのけられるんではないだろうか。
客観的に、一般的な目線で判断するとな。
自分が恵まれてる自覚は有るさ。

 それでも俺は苦労人で、そして損ばかりしている人間だ…少なくとも俺自身はそう感じているし、そう思っている。
特に最近、何かにつけそれを感じることが多い。

全ては季節外れの転校生がやって来てから。

 俺の通ってる高校は、今時珍しい全寮制で金持ちの為に存在しているような所だ。
とにかく随所に金をかけ、とにかく通い続けるのに金がかかる。
その他長ったらしい学園の説明は、『王道』の一言で割愛出来るらしい。
結婚して家を出た姉が前に、そう言えばとある筋の人間は0.1秒で理解すると言っていた。
とある筋って?と尋ねてみたけれど、姉は何か遠くを見る様に微笑み、無言で目尻を波打たせるだけだった。

 そして『王道』の一言で転校生の性格や行動パターンも、とある筋の人間は0.1秒で理解できるそうだ。一体何の筋なんだ。

 『王道学園にやってきた王道転校生と、王道に惚れた王道爽やかクラスメイト』…それが俺のポジションらしい、姉が言うには。
王道がどうたらは分からないけど、大体のところは合っていると思う…少なくとも俺が転校生に惚れたのは確か。
でも彼に惚れたのは俺だけではなくて…学園の内閣である生徒会や、学園の裁判所である風紀委員達も、学園のどんな生徒とも違う転校生に夢中になった。

それはもう、熱烈なアプローチをそこかしこで繰り返した。

 俺もその内の一人…けれど、周囲から見れば『その内の一人?』という扱いをされている。
転校生と仲が良いのは事実、たぶん惚れているだろう…だけど必ず一歩引いている。

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