Story

□Wiz. 序章
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 常秋の国、ガクト。
小国で有りながらその歴史は古く、百数十年前は右大陸の列強の一国としてその武を誇った国。
常に緊張を孕む実に微妙な立ち位置にいる、多くの意味で稀有な国。

 一年通して収穫の秋という農耕に富む豊饒の国は、食料事情に憂える国にとっては宝の島であり、百数十年前の戦を通じ開発された数々の兵器は、軍備強化を計る国にえもいわれぬ魅力を放つ。
その勤勉にして努力家な国民性から生まれる緻密で繊細な工芸品は、商人の間ではそれを扱えるようになれば一流だと見做されるほどで、商人の憧れと言っても過言ではない。
またそれぞれの街の景観は、自然の美しさもさることながら、優美さと素朴さを兼ね合わせた建造美にも目を奪われる。
腕のいい料理人が作る質の良い料理、その美味たるや大陸中で知れ渡るほどだ。
さらに魔力を極端に嫌う特異な土地柄は、魔術が重要な軍事力とされる昨今、まさに天然の要塞と言っても良かった。

 食料、軍事力、貿易、観光資源…それらが魔術という脅威から囲いで守られた国。
この小さな国土を手に入れる事は、それら全てを手に入れるということ。

 近隣諸国が舌なめずりして虎視眈々と標的に定める小国。
それでいて、誰もが。
眠れる獅子の目覚めを、
果敢にして聡明な王族の血を、
百数十年前の強国の幻を、
得られる富の分以上の恐れをそこに見る。
ガクトという小国の独立が保たれているのはそういうことだ。

 危険という名の綱の上、風が吹けば大きく揺れて真っ逆さま。
けれど誰もがそれに慣れて、当たり前過ぎて恐怖すら置き忘れてしまった人達の国。

平和と平穏を享受する夢の国から、すべては始まる。


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