Story

□Wiz. 序章
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02.



 背中には固いような柔らかいような感触、体全体を包む心地良い温もり。
身じろぐ度に衣が擦れる音が頭に響いて思わず眉間に皺を寄せる。体が重くて気持ち悪い、重度の二日酔いみたいだ。
 痛む米噛を押さえることすら億劫で、シェシィリエは、はぁ、と苦しげに呻いて瞼を持ち上げた。

「目が覚めたか?」

 じっとりと湿った額を右手の甲で抑えてゆっくり二回瞬く。
美貌の男はその仕種からシェシィリエの体調がまだ良くないと判断したらしい、うっすらと眉を寄せた。

「その様子だと馬に乗り慣れていなかったようだな…疲労が激しい、大丈夫か?」

 シェシィリエは困惑した。
男の言葉のどこかに、感心したような響きを確かに感じたから。
最後の『大丈夫か?』だけとって付けたように浮いていたのは、気のせいかもしれないけど。

「…酸欠で気絶したんだ。覚えてるか?」

 ほとり、ほとり、落ちてくるその声はなんとなく暑い国の実から作るお菓子に似ている。
あれは何と言った?

「暫くすれば強張りも取れてくると思うが、それまでは大人しくしているんだな」

 ああ、そう。ちょこれぇと…とか言う名前の嗜好品だ。
口にした事無いけれど、イメージとしてはそんな感じ。ほろほろと苦くて、甘い。

「昼下がりと言ったところか。日が少し傾いてる」

 少しずつ落ち着きを取り戻していく耳に落ちる美声…波間をたゆたうに似た、眠たい様な心地で目を開くと翠の煌めきが一瞬消えてまた現れる。

「寝たのか?」

ああ、瞬きをしたんだ……じゃなくて。

「近い」

 シェシィリエは上から覗き込んできた美麗な顔を掌で押し退ける。

「……無礼だなお前」

 不満そうな顔を作りつつ、目だけは笑っている男にぐったりと脱力しながら、体を包む布を肩まで引き上げ、足を折り畳んで温かい何かに擦り寄った。
睫毛が青い…とぼんやり考えを巡らせながら何となく視線をそちこちに滑らせる。

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