Story
□Wiz. 序章
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濃淡様々な色合いの、見事に黄葉した銀杏の木々。
黄色い森かぁ、街にそんなの有ったかなぁ…?
有っ…た…
か、
なぁ…?
……
「無かった!無かったッ!そんなの!!」
カッと体を起こして立ち上がろうとすると、グラリと景色が歪んで、かくん、と首が前に折れた。
「ぅ…」
「おい」
そのまま前のめりに倒れ込みそうなシェシィリエを、後ろから延びて来た男の腕がスルリと抱き留める。
「大人しくしていろと、言わなかったか?」
「……すいません」
鍛えられた腕は、服の上からでも筋肉の固い感触が伝わってくきて、それが何だか意外でシェシィリエは美麗な顔を見あげた。
はー…つくづく綺麗な顔だよなぁ、何か人間じゃないみたい。精霊とか神様とか言われた方がよっぽどしっくりくるよ。
身体も結構筋肉ついてるし、均整取れてるし…いいなぁ。
よせばいいのに我が身を省みて落ち込んでしまう。
顔は…眼鏡をかけると根暗だし取ったら取ったで平凡だし、筋肉は無いわけでは無いけど何と言うか、お粗末だし…栄養事情が良くない為に14という歳の割に、背は低く痩せっぽち。
何だろう、この不公平感は。
「どうした?」
つらつらと考えている間、ずっと凝視されていた男が怪訝そうにシェシィリエを覗き込む。
その整った容貌のせいなのか、見られていることが恥ずかしくて堪らない。美しさは罪、とシェシィリエはその言葉を現在進行系で噛み締めた。
「いえ。というか近いです」
さっきから何故だかやたら近い麗人から、身体逃がしてシェシィリエは赤面する。
この態勢って!!
背中はぴったりと男の胸にくっつき、見るからに高級な上着に毛布よろしく包まれ、後ろから延びている腕がお腹の辺りで交差して…足の間に体はすっぽりと収まっている。
まるで背後から抱きしめられているような…否、まさにその通り。
僕昨日お風呂入ってない!
隙間なくくっついた身体。
汚れた服をベタついたた髪を、汗の臭いを急激に意識する。麗人から微かに薔薇の香がして、刺すような羞恥にますます拍車がかかっていく。
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