Story
□In a cadenza
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04.
シェシィリエが目を覚ましたのは、朝のだいぶ遅い時間だった。
「うわっ?!寝坊っ!!」
声をひっくり返して、シェシィリエは眼鏡の下でカッと目を見開き跳び起きる。
あれ?とキョロキョロと首と目を動かして、やがて力尽きたように頭から突っ伏した。
そっか…もう、朝の仕事はしなくていいんだ。
井戸の水を汲んだり、掃除道具を点検したり朝食を作ったり…親方に拾われて数年、ずっと繰り返して来たことを思い出して、朝っぱらから気分がしんみりとしてしまう。
「何だ、やっと起きたと思えば騒々しい」
ギクリっと、センチメンタルな気分を遠慮なくぶち壊してくれた主を見上げる。
昨夜の騒動がまざまざと、取り留めもなく浮いて沈んで、眼鏡の裏に写り込む。シェシィリエは目を泳がせた。
しがみついて泣いてみたり…そんな恥ずかしいこと正気ならまずしないのに。
それから、何だか責めるような態度を取った気もするから、謝らないと。
信じてくれたんだよね?僕のこと。
そう、そうだ有り難うって言ってない…庇ってもらったのに。
それから…
滑らかな顎のラインが白く煌めくのが、きらきらの夢を見ているみたいだ。
優しい…なんて、あんなの。
不意に瞼に真っ白な指の冷たさが蘇って、振り払うみたいに躊躇いがちに口を開いた。
「おはよう、ございます」
「…ああ」
驚いたようにちょっと目を見張って、シリスもごく自然な和やかな空気を放つ。
「おそよう」
そこは、さすがのシリスだった。
別にいーんだけどね…
なんとなく拗ねたような気持ちになりながら身を起こす。
「よく眠ってたな、無理もないか」
顔を洗ったり口を漱いだり、身支度が一段落するのを見計らって、外の様子が気にかかるのか窓の側からは離れないまま、シリスが目を寄越す。
「外、どんな感じですか?」
「これと言って何も」
ふっ、と疲れた様に短い息を漏らし、おもむろにカーテンでピシャリと外界を遮る。
「ちょっと何するんですか!僕これから見ようとしてたのに!」
「ああ、そう。それは悪かった」
棒読み…!?
些細では有るがちょっとショックな扱われ方だ。
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