Story

□In a cadenza
20ページ/81ページ

05.



 シェシィリエが連れて来られたのは森に程近い開けた場所、洗濯場だった。

「女将さん!」

 シーツが山になった籠を慌てて地面に下ろし、エプロンをした中年の洗濯女が駆け寄ってくる。

「ノーマ、お手伝いさんを連れてきたわよ」
「助かった、有り難うございます女将さん」

 心底ホッとしたように洗濯女が胸を撫で下ろし、ぼぅっと突っ立っていたシェシィリエに目を向ける。

「アンタがそうかい?」
「はい、よろしくお願いします」
「…ノーマ、ちょっと」
「え?えぇはい」

 導かれるまま、女主人とノーマは逃げるように離れたところに移動する。

「何だってそんなの寄越すんですか女将さんっ!!」

 手持ち無沙汰で二人を眺めていたシェシィリエは、突然聞こえてきた大きな声に耳を叩かれ、思わず直立不動で息を飲んだ。
殆ど怒鳴るような声だった。

「落ち着きなさいノーマ」

 一喝するように口調を強くして言い放ったのは女主人の方か。

「彼らはただ巻き込まれただけかもしれないのよ?
まだ何も分かっていないのに、人殺しなんて言うものではありません」

 瞬きも忘れて硬直する。
窘める声が語るのは間違いない、自分達のことで。

「それに、嫌疑がかかっているのは連れの方であの子ではないわ」
「だけど怪しいじゃありませんか、メリアだって――」
「だって何?」

 殊更に声が冷えた。
ノーマを見据えているだろう凍った目の色が、咄嗟に二の句が紡げず黙り込んだノーマの表情が、すぐ近くで手に取って見えるような気さえした。

「彼が殺すところを見たとでも言う気でいるの?メリアはそんなところ見ていないし、貴方はその場にすら居なかったでしょう」
「女将さん、でも…!」
「あの子は困っている私達を見兼ねて手を貸してくれるの、それを忘れないでちょうだい」

 命じることに慣れた者の傲慢さと、突出した他者を従わせる力…良いわね、と有無を言わさない強さで言い切る女主人に、異を唱えることはきっと誰にも出来ないだろう。

「女将さんが、おっしゃるんでしたら」

 ノーマが諦めたように頷いた。

.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ