Story
□In a cadenza
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05.
シェシィリエが連れて来られたのは森に程近い開けた場所、洗濯場だった。
「女将さん!」
シーツが山になった籠を慌てて地面に下ろし、エプロンをした中年の洗濯女が駆け寄ってくる。
「ノーマ、お手伝いさんを連れてきたわよ」
「助かった、有り難うございます女将さん」
心底ホッとしたように洗濯女が胸を撫で下ろし、ぼぅっと突っ立っていたシェシィリエに目を向ける。
「アンタがそうかい?」
「はい、よろしくお願いします」
「…ノーマ、ちょっと」
「え?えぇはい」
導かれるまま、女主人とノーマは逃げるように離れたところに移動する。
「何だってそんなの寄越すんですか女将さんっ!!」
手持ち無沙汰で二人を眺めていたシェシィリエは、突然聞こえてきた大きな声に耳を叩かれ、思わず直立不動で息を飲んだ。
殆ど怒鳴るような声だった。
「落ち着きなさいノーマ」
一喝するように口調を強くして言い放ったのは女主人の方か。
「彼らはただ巻き込まれただけかもしれないのよ?
まだ何も分かっていないのに、人殺しなんて言うものではありません」
瞬きも忘れて硬直する。
窘める声が語るのは間違いない、自分達のことで。
「それに、嫌疑がかかっているのは連れの方であの子ではないわ」
「だけど怪しいじゃありませんか、メリアだって――」
「だって何?」
殊更に声が冷えた。
ノーマを見据えているだろう凍った目の色が、咄嗟に二の句が紡げず黙り込んだノーマの表情が、すぐ近くで手に取って見えるような気さえした。
「彼が殺すところを見たとでも言う気でいるの?メリアはそんなところ見ていないし、貴方はその場にすら居なかったでしょう」
「女将さん、でも…!」
「あの子は困っている私達を見兼ねて手を貸してくれるの、それを忘れないでちょうだい」
命じることに慣れた者の傲慢さと、突出した他者を従わせる力…良いわね、と有無を言わさない強さで言い切る女主人に、異を唱えることはきっと誰にも出来ないだろう。
「女将さんが、おっしゃるんでしたら」
ノーマが諦めたように頷いた。
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