Story

□In a cadenza
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「いいかい、一回で覚えな」

 迫力の睨みに押されるみたいに必死に頷くと、フンッとノーマは鼻息を漏らし、白い山からシーツを引っ張りだして広げた。

「シーツを広げて染みを探す。ほら、こんな染みだよ。
こんな染みを見つけたらこっちの石鹸をつけて摘み洗いする。よく見ときな」

 そう言って石鹸を擦りつけ、両手の親指と人差し指でグシグシ擦り合わせる。
その指の動きの早い事、僅か数秒でみるみる染みが薄くなっていく…信じられない面持ちでシェシィリエはノーマの指先を凝視した。

「…こんなもんかね。
こんくらい染みが落ちたらこっちの桶に、こうやってなるべく広げていれる。折り畳んでもいい。
中の水には石鹸溶かしてあるからね、作るのも手間なんだから絶対に零すんじゃないよ」

 シーツを軽く折り畳んで桶に沈める。桶の中は石鹸のせいか白っぽい水が張られていた。

「とりあえずはここまでにして、続きはまた後で教える。
アタシは汚れ物集めてくるから、アンタはその籠ん中を片しといておくれ。
まだ半分も集まって無いんだからね!サボるんじゃないよ!」

 言い捨てると、ノーマは空の籠を抱えて走り出した。なかなかの健脚だ。

「ちょっとの時間が惜しいくらい忙しいのか、それとも単に僕から目を離したくないのか」

 んー半々かな、と冷静に呟いて、言われた通りにシーツを引っ張り出して広げた。
 不器用に石鹸を擦りつけて摘みながら、頭の中を目まぐるしく回転させる。

ちゃんと洗濯の仕事も教えてくれたし、元々の気質は悪くないみたい…ニコニコ笑って働いてみせたら、案外楽に味方になってくれそうだ。

 シェシィリエは薄く笑う。
 腐っても元掃除夫。
強欲でケチな金持ちを相手に、モップと箒で稼いできた強か者。

無邪気に懐く子供を振り払うのは、結構な覚悟のいる仕打ちだからね…

 働きやすさは仕事の能率をあげる。
シェシィリエは俄然沸いて来たやる気で、働く子供の魂が燃え盛るのを感じた。

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