Story

□In a cadenza
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06.


 
 数分前に訪れた役人が、こう告げた。

『怖かったですね、大丈夫ですよ。あの男は必ず処刑台に送りますから』

 無実だと、殺したところは見ていないんだと、混乱していたから――主張した言葉全てを無視した返事。
瞬間駆け抜けたその戦慄を、何と例えよう。
信じる信じない、信じられる信じられない…そんなもの議論の余地すらそこにはない。
 あの人は無実の罪で裁かれてしまうのだ。
役所の人間達がそう決めて、これから彼に罪を被せる算段をつけていく。
そのうちの一つに、自分も組み込まれてしまう。証言者として。

「どうしたらいいの?!」

 寝台の中で頭を抱える。
バリバリと頭を掻きむしり、暴れ狂う様に激しい寝返りをうつ。
あのとき人殺しなどと言ったから、こんなことになったのか――だとすればそれは。

私のせいだわっ…!

 寝台で横になるのも苦痛で、メリアは起き上がって窓際に移動する。
少しだけ開けたカーテンの隙間から、特に何を見るでもなく眺めた外を何かが歩き去っていく。

「あ…」

 黒い頭と赤いドレス。
赤いドレスは女将のもの、視界を横切るあの黒い頭は確かあの人の連れだ。

「盗人が、まだいるのね」

 冷ややかに呟く。
何で女将さんと一緒に、と思って、そこでメリアはふと気付いた。

どうして、あいつが外に出れるのよ。

 あの人は離れの、元々泊まっていた部屋の隣に軟禁されて昨夜は一旦幕を下ろした。
その連れで、一緒に部屋に押し込まれたあの盗人が何故外をうろついているのか。
何故、あの人の側に何故まだいるのか。

「私…は?」

 あの盗人が許されるなら、自分はどうなのだろう。

私は見たことを言わなかっただけ。隠しただけよ…よくあることだわ。

 法に触れる行いなど何一つしていない自分、街を追放された犯罪者。
あの子供が許されるなら、自分の方がもっと許されて当然の筈だ。

「謝れば、許してくれるかしら…?」

きっと…許されるわよね?

 寝台に倒れ込んで丸くなる。

謝れば、謝ったら、謝るから、謝ったなら、謝れば、謝れば謝れば謝れば…

 そうすれば全てが丸く収まるような、そんな気がした。

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