Story

□In a cadenza
32ページ/81ページ

07.


 
「ノーマさん、遅いな」

 呟きながら、ぴちゃぴちゃと石鹸入の桶に手を浸け、嵩張るシーツを押さえて沈める。
 足元には空っぽの籠。
『綺麗にすること』に関して、ジャンルが違えどシェシィリエはプロだった。
広げて摘んで放り込む作業は単調だし、洗濯は親方の家でもしていたことなので慣れるのにそう時間は掛からなかったのだ。自分でも驚いたことに。

 ノーマの帰りも遅く、シーツは全部桶の中。
きっとこの後モミ洗いして濯いで、絞って干すのだろうけど…けれどこれから何をどう触ればいいか解らない。宿屋らしい一手間が必要かもしれないし。

だからってブラブラしに行くわけにはいかないし…

 何かすることは無いか、とシェシィリエは困った顔で辺りを見回した。

「あ」

ナニアレ…?

 粗大ごみ置場?と一瞬思って、でも何かが違うと首を捻る。何だあれは、あの雑然と並べた異様な物体の数々は。
 ポンプ式の井戸、革の細長い筒がぐるぐると巻き付いた車輪、車輪には取っ手がくっついていて、そして車輪はでっかい鉄みたいなので出来た箱にくっついている。
箱の上部にはそこが開くのか凹みと溝と持ち手が、そして左の側面の隅には丸くくり抜いた穴と、その穴の蓋らしきものが転がっていて。
さらにその箱の側には籠を被った深底の大きな木箱、その後ろには長い棒が立て掛けられていた。
 それらが、ぎゅっとその一帯に集められている異様さにたじろぎながら、シェシィリエはゆっくりと近付き、木箱の帽子になっていた籠を観察した。意外と綺麗だ。
 次いで上から木箱を覗き込む。
二本の太い棒が横向きに並び、下の方には木切れを差し込んだみたいな出っ張りがある。
外側のちょうど同じ所に厚めの板切れを見つけて、シェシィリエは軽く踏んでみた。

ガッコン!!

「ひっ!!何?!」

 慌てて足を退けると、コンとまた音がする。
シェシィリエは茫然と木箱と板とを数秒眺め、今度は中を見ながら踏んでみた。

ガッコン!!

「わっ」

棒が動いた!

 足を離すと棒がコン、と棒が両端に戻り、踏むとガッコン、と真ん中に寄ってぶつかり合う。

この板はペダルなのか。これで棒を動かして…あれ?何に使うんだろう?


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ