Story

□In a cadenza
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02. 



 時間帯もあって徐々に賑わっていく食堂のその一角だけは、見えない幕で包まれているように淡々とした時間が流れていた。
誰にも気付かれていないのではなく、誰もが気付いていてあえてそこに混じろうとしないから。
そうやって遠巻きにして知らん顔しながらも気になるらしく、こちらの会話を一遍一句逃すまいと横目で盗み見たり、耳をそばだてたり…
結果、シェシィリエとシリスの座るテーブルの周囲には、妙な熱を孕んだねばこい静けさが漂うのだった。

 やって来た者がこちらを見ては硬直し、しげしげと見つめては罰が悪そうに空いている席に座っていくのを、何人目だろうかとぼんやりして見遣る。
居心地悪さMAX…知らずそんな呟きがもれた。

「白身魚のスープです」

 頼んだ覚えもない料理を差し出され、シェシィリエは戸惑った顔でスープと給仕の娘を振り返る。

あれ?もういない…

 どこに行ったかと探してみると、食堂をこまこまくるくると移動しながら、見ていて感心するほど素早く、にこやかに注文を捌いている。
よく見るとそれは先程ニィルと話していた娘で、お気に入りのシリスに近付けたのが嬉しいのか、愛想笑いにしてもサービス過剰な満面の笑顔だった。

「シリス、これ…」
「店側のご厚意だろう?有り難く受け取ろう、折角だから」

店側のっていうか、ニィルかあの子の好意ってかんじだけど。

「これは、驚いたな」

 シリスがポロリと零す。
肥えた舌にもこの店の味は通じたらしい…魚の本来の甘みがあって、香辛料がほどよくきいたスープは文句なしに美味しかった。

「これで葡萄酒があればもっと嬉しいんだが」

葡萄酒?合う…かなぁ?

 スープは本当に美味しかったけれど葡萄酒に合うかと言われれば、首を傾げてしまう。
盗み見るとシリスとばっちり目があい、ニッコリと笑い返される。
意味は解らないけれど、何となく言葉を封じ込めるような強引さを感じた。
 釈然としない何かを感じつつ、スープを掬って曖昧に頷くだけに留める。旨いものに慣れた人ならではの味覚の鋭さって、あると思うし。

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