Story
□In a cadenza
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16.
魔法陣はそもそも、魔術を発動させる条件を文字や図形に変換して図案化したものだと、アゼルは言った。
目的に合わせて多種多様に存在しそれぞれに基本の形があって、そこに何を書き加えるかで魔法陣はより利便性に富んだものになる。
捕縛の魔法陣に<ウィリー>と書き加えればウィリーだけを捕らえる魔法陣に、霊呼びの魔法陣に何月何日に死んだ何とかという女と書けば、その女の死霊を狙って呼び出す魔法陣の出来上がり。
では、もし。
何月何日に死んだ何とかと言うウィリーと書いたなら?
それがもし、誤った情報だったとしたら?
「魔法陣は、暴走する」
ポツリと落ちた呟きを拾ったエイネイが、訝しげにこちらを振り返る。ぱちん、と合わさった視線に薄く微笑んでシェシィリエは手元の新聞に目を落とした。
「これが保存されている一番古い新聞です」
「ホントに、シリスも何だってこんなことを調べさせるんだ」
端が茶色く変色し始めた古い新聞は右上の隅に小さく発行日が印刷されている。日付は半年前のものだ。
「ウィリーに殺された奴の名前なんて、埒が明かないことを」
「…そうですね。過去の新聞は半年で破棄されますし」
囁く様にして手渡された古新聞を、ぷんっと鼻をつくインクの臭いに眉をしかめたエイネイが机に広げる。
「っとに。字が読めない癖に図書館に連れてくるか、普通」
「読めないから連れて来たんです、エイネイがガクトの言葉に堪能で本当に良かった」
「堪能ってお前、それ知ってて字は読めないとか詐欺だろ」
堪らないとばかりに噴き出したエイネイに、四方からジロリと視線が突き刺さる。気まずそうにするシェシィリエとは対照的に、張本人のエイネイは気にした風もなく新聞を目で追い始める。
「ああ、これは」
厳しく細められた琥珀の瞳。節くれだった指が小さな記事を指でなぞる。
「『森で遭難、ウィリーによる被害か?』」
「新聞に堂々とこんな見出しが出るなんて、ウィリーって本当に知名度高いんだ」
隣街だったのに知らなかった、と眉を寄せてそう返すと首が同意を示して縦に赤い軌跡を描く。
「この翌日のは?」
「これです」
サッと新聞を広げて差し出した。
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