Story
□In a cadenza
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17.
「右の眉に傷が有ってパッと見は怖いんだけど実は凄く優しくて…ジョシュ、ねぇ聞いてる?」
俯せたまま膨らませた白い頬を掌に乗せて、むぅっとした顔で軽く睨まれる。
木炭とスケッチブックを傍らに、くつくつと控え目に笑いながら陽光を弾く金髪に指を延ばした。
「え?何?」
驚いてきょとんとなる少女にまた小さく笑って、人差し指で摘み上げた物をそっと差し出す。
「葉っぱ、着いてた」
「嘘っ!?!」
慌てて起き上がりバサバサと頭を払う。
もはや払っているのか叩いているのか解らない力加減に苦笑して、もう着いてないよと教えてやる。
早く言ってよ、と抗議されるが…さて葉っぱが全て落ちたなら早くそう言ってなのか、それとも葉っぱが着いてたならもっと早く知らせて、なのかどちらだろう。
「ぅー…」
暫くして拗ねた顔でゴロンと横になり、右に左に転がりながら少女が不満そうに唸る。
また葉っぱがくっついても知らないよ、とは言わないでジョシュアは伏せていたスケッチブックを仕舞った…一番最後のページに描かれた葉っぱつきの少女のスケッチを、見つからないように隠しながら。
「私、男爵様って嫌いよ」
憂いを含んだ声、ズキリと胸が痛む。
「ジョシュ、ごめんなさい」
俯き加減の顔に白い手が延びて、悲愴な表情がゆっくりと目に入った。
「良いんだ。父の悪評は僕だってよく分かってる」
不安そうな少女に微笑みかけ、寄り添う手をそっと引きはがす。
「今はまだ一族内でも派閥同士の力が拮抗しているけれど、このまま黙っているわけにはいかないから…だから大丈夫だよナシア」
「ジョシュ…」
労るような目をする年下の幼なじみにもう一度微笑んで、ジョシュアは立ち上がった。
「そろそろ帰るよ。実は工場を一つ片付けようと思っていてね、色々と根回しが必要なんだ」
尻についた黄色い葉っぱを叩いて、ジョシュアはナシアに背を向ける。
その背中に遠慮がちな声がかかった。
「ジョシュ、待って」
「え?」
「さっきの傭兵さんの話なんだけど…」
「まさか何かされたの?」
途端に険しくなったジョシュアの目に、ナシアは焦った様に首を振って否定しやっぱり良いわと笑った。
「またね」
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