Story
□In a Scherzo
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「それは確かにそうだろうな、すまなかった」
それでも不快感は通じたのだろう。
しゅんっとなった坊ちゃまが小さく謝罪するのを、シェシィリエは複雑な表情で眺めた。
こうして見ると思った以上に若い…もしかしたら成人にも満たないかもしれない、育ちきった身体を竦める様子はそれくらい幼く見える。
「正直なところ、お前達に非は無いのだ」
「そうでしょうとも」
思わず口を挟んだシェシィリエはしかし、言いたい事の半分も言えずに口を噤むしかなかった。
ニ方向から同時に強い視線が飛んできたから。
「それならば尚の事ご説明頂きたい。何の所縁もない旅人を使って、一体何をなさろうと言うのです?」
むっつりと黙り込むシェシィリエを気にした風もなく、シリスは挑発とも取れる直接的な言い回しで核心へと触れる。
「そもそも貴方は誰なのですか」
巧みな穏和さを浮かべる裏で狡猾な煌めきを秘めて収縮する、翡翠の瞳。
宝石みたいに綺麗な色をしているからなのか…無意識に手を延ばしたくなる不思議な瞳だと、シェシィリエはぼんやり思った。
「まだ名乗っていなかったか、それはすまないことをした。
私はカイル・ダル・ヤィエ、シルヴ国王より伯爵位を賜るヤィエ家の者だ」
シリスの心臓がドクリッと大きく鳴動し、シェシィリエは眼鏡の奥で目を伏せる。
何故こうも簡単に本名を明かすのか。
後ろ暗い何かをさせるつもりは無いということなのか、それとも…身分を明かさなくてはどうにもならない事態に巻き込もうというのか。
何となく嫌な予感が沸き上がった。
「明日の夜、我が屋敷で催しが有るのだが…諸事情で手が足りないのだ」
諸事情…
口許を引き結んで薄く眉を寄せる。妙に引っ掛かる言葉だ。
「本当なら今夜にでも助け舟が到着する筈だったのだが、どうやら道中に何か有ったらしい」
まさか、それが例の一団とかいうのなんじゃ…?
「お前、すまなかったな」
何故だろう?しっかりと視線が合わさっているのに、全く謝られている気がしない。
助っ人に間違われたらしいことは解ったし、良しとしよう。
心に溜め息を落とし、シェシィリエはその横柄な謝罪を無言で受け入れた。
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