Story
□In a Scherzo
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03.
外側から鍵が外され馬車の扉が開かれ、澄んだ冷たい夜の空気と噎せ返る様な甘い薔薇の香が一気に肺へとなだれ込む。
「足元に段差がございますのでどうか気をおつけ下さい」
冷静な声に促され、威圧する様な白い門と両開きの扉に絡まる薔薇の蔦を交互に見ながら、シェシィリエは慎重にタラップを下りた。
「如何なさいました坊ちゃま」
「い、いや。まぁ、人生にはハプニングが、有ると…思うんだが」
訝しげに小声で尋ねるガロと、しどろもどろに誤摩化すカイルの会話を背中で聞いて、シェシィリエは俯いて肩を揺らし視線を余所へと逃がす。
「ぶはっ!!」
…逃がした先が悪かった。
「ちょっと、何を笑ってるの?」
軽く眉間に青筋を浮き上がらせて抗議される。
「たっ、はっ、タイミングが悪かっ…ははははは!」
タイミングが悪かったんですよ、と慰めようとした口から勝手に笑い声が飛び出し、こめかみに生温い目が突き刺さった。
後ろでカイルが今にも卒倒しそうな顔色で立ち竦み、馬車での悲劇を知らないガロが戸惑いの表情を浮かべている。
「何でも、何でもありま、せん、から…」
笑い混じりにガロへ向けて首を振り、あからさまにホッとしたカイルが面白くて、また噴き出しそうになる口許を咄嗟に両手で強く押さえた。
「笑い事じゃないんだけど?」
肩から黒い何かを立ち上らせて小さく囁きながら詰め寄る美貌。
小さなキッカケでまた笑い出しそうなのを懸命に押さえ、息を吐きだしながら不機嫌そうに口許をひくつかせるシリスを見上げる。
「ぶっ」
…2秒と持たなかった。
シリスとカイルが!
シリスとカイルがっ!
悲劇…いやこの場合は喜劇だろう。
揺れ動く馬車の中で急に立ち上がったカイルはバランスを崩し、たまたま正面に居たシリスの方へと倒れ込み。
キス!!
必死に笑いを堪えていると後ろから軽くふくらはぎを蹴られ、不愉快げに冷めた視線で一瞥される。
あんなっ、冗談みたいな事が実際に起きるなんて!!
蹴らなたふくらはぎより、今は腹の方が痛い。
シリスは言わずもがなだしカイルもそう顔立ちは悪くない、不思議と見た目にストレスを感じなかった分、余計に笑えてくる。
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