Story

□In a Scherzo
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「何をするんですか!」

 思わず大声を上げてしまって、慌てて口を押さえる。そう言えば夜中だ。

「返せと言うから返しただけ」
「あれは投げたって言うんです!あれを返すとは言いません!普通に手渡して下さいよっ」
「それじゃ俺が面白く無いじゃないか」
「そんなの知りません」

 シェシィリエはむぅっと唇を尖らせると、自分を落ち着かせるみたいに息を吐き、勘を頼りに眼鏡の場所まで辿り着く。
 矯めつ眇めつ眼鏡を検分し壊れていないのを確認すると、分厚いレンズを纏って神懸かった美貌を睨み付けた。

シリス?

 鮮明になった視界にシリスを捉えた瞬間、怒りのそれが怪訝な面持ちに変わる。
甘やかな翡翠の瞳に停滞する水底の静けさと暗さを宿し、神懸かった美貌は何事かを深く考え込む様な表情を浮かべていた。

「解らない、これは一体どういうことだ?」

 難しく眉を真ん中に寄せるシリスに吊られて、シェシィリエまで眉間に皺を刻む。
突然何だというのだろう。

「お前、特徴が無さ過ぎるぞ」
「は?」

 まじまじと見つめられ、目が合ったまま告げられる。

「個性に欠ける。眼鏡をかけた方がインパクトが有るだけまだマシだ」

 真面目な顔で言われて、漸く自分の事を言っているのだと思い至った。

「こんなダサい眼鏡をかけた方がまだ良いなんて、どれだけ没個性なんだお前は」

そっ、そんなこと言いますか普通!!!

 開いた口が塞がらない。
確かにそうかもしれないと心の一部で同意を示しつつも、顔の特徴は?と聞かれれば眼鏡と即答するだろうと自分でも思うけれど。
それくらいには自分の容姿の凡庸さに自覚は有るけれど。

なんて無神経で嫌な奴!

「没個性で悪かったですね」

 ぶつけたい言葉の多くを飲み下し、ドスドスとわざと足音を立ててシリスを一瞥もせずに部屋を出ていく。
バンッ!!と扉を閉める音が屋敷中に響いた。
わけの解らない不安がすっかり消え去っていたことには、最後まで気付かずに。













「あの、眼鏡…」







 ほろ苦い声が紡ぐ険しい呟きを、暗闇だけが聞いていた。

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