Story
□In a Scherzo
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「カンタータとカデンツァは煉瓦や木造の建物が多かったでしょう?」
カンタータやカデンツァの町並みとは違った色合いに、どうやら目が違和感を覚えているようだと説明する。
シリスにも異論は無い様で、納得した様な振動が旋毛をぐぃんっと刺激した。
「あの街は別荘地として人気が有るそうです。
白い建物が目立つのは異国文化の影響が現れているからかもしれませんね、中には外国のお金持ちの別荘も有るみたいだから」
「あの街の向こうは確か港町だろう」
「ええ」
あの街の更に向こうの街には貿易港が有る。
人が羽目を外す観光地と、人の行き来が激しい港町に挟まれた金持ちの町。
「ふぅん…そんな所に欲しいか?別荘なんて。ずいぶんと物騒な立地だろうに」
「確かに空き巣が横行しそうではありますね」
僕もどうかと思うんですけど…と脱力したまま頷けば、クッと嘲笑うかの様に喉の奥で音を鳴らす。
「それにしても良くご存知ですね、港のことなんて」
また旋毛にゴリっとした感触がしたかと思うと、唐突に景色が陰った。
「知っていても可笑しくは無いさ」
空色の髪が薄暗い視界の端をちらつき、翡翠の双眸が幾度か緩く瞬く。
目を見張るシェシィリエを覗き込む翡翠の瞳…空の睫毛の下で澱んで濁って息を飲むほど昏い、その色。
「俺はその街で船を下りる筈だった」
底無し沼に引きずり込むかの様に重く、陰惨な空気を持った呟きに知らず背筋が強張る。
こんな眼を…一体何故?
自分とそう年齢は変わらない筈なのに。
こんな眼をして良い様な、そんな年齢ではないと思うのに。
「宿、今からでも取れますかねぇ…」
動揺を隠そうとして、完全には隠しきれずに曖昧に響く呟き。
「難しいかもな、外で寝泊まりも覚悟しとけよ」
シェシィリエの内心の揺らぎに気付いた風も無く、シリスはいつのもの調子で相槌を打つ。
それに少なからずホッとして、気が抜けたみたいに四肢が弛緩した。
「そう言えばあの街の名前は?」
馬の速度は落としたまま。
何だかんだ言いつつも急ぐつもりは無いらしいと、シェシィリエは緩く笑う。
「スケルツォ、ですよ」
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