Story

□In a Scherzo
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01.



「ああ、間に合ったか」

 橙色の筋を残して沈んでいく太陽を惜しむ様に呟き、シリスが馬を止めシェシィリエの腰の辺りを軽く叩く。

「間に合いましたね、幸か不幸かは解りませんけど。よっと」

 シリスに頷き返し、シェシィリエは恐々とけれど身軽に地面に降り立った。長く揺られていた所為で固くなった膝が、心地好く屈伸する。
 何度か足の腱を曲げ伸ばしして、ふと顔を上げた。
暗闇に溶けはじめた町並みの中、いくつも立ち並ぶ洋館の白い壁だけがやけに眩しい。

「すみません、検問をお願いします」

 厳めしい顔で立っていた門番に向かって大きく手を振り、走り寄っていく。

「こんな時間にか?」
「ええ、まぁ。すみません」

 応対が少しばかり無愛想でもここは触れずに流しておくべきだろう。
滑り込みを自覚しているシェシィリエは、少しばかり迷惑そうな顔をする門番に軽い苦笑と謝罪を返した。

「入れるだけなら構わないんだがなぁ」

 門番があからさまに渋い顔をする。

「今からじゃ宿も取れないだろうに」
「予定よりずいぶん遅くなってしまいましから…入れてもらえますか?駄目元で探してみますので」

 明日回しにされそうな、下手をすれば追い返されそうな気配を感じて先手を打てば、門番は思案げに顎を掻いた。

「宿を探すよりも…人柄の良さそうなお貴族様んトコに行った方が良いんだが」

 言いかけた門番の唇が、シェシィリエを見て止まる。

「通るのに問題は無いんですね?」

 上から下を観察されれば嫌でも言いたいことが解るというもの。
シェシィリエは溜息を吐きたいのを押さえ付け、さも今気付いた風を装って後ろを後ろを振り向いた。

「ああ…まぁ、荷物は確認させてもらう、が…?」

 シェシィリエの動きに吊られて目を向けた門番が、ハッとした様に固まる。

「問題無さそうですよ」

 目を合わせてそう教えると、シリスは華麗に鞍から下りて心得た様なタイミングで口許を綻ばせた。

「そう?良かった」

 ゾワリ、と鳥肌が立った両腕をさりげなく後ろで組んで隠しながら、シェシィリエは引き攣った笑みを返す。
頼むから優しく微笑まないで欲しいと切実に思った。

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