Clap log

□例え君を押し潰すと知っていても…
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もしかしたら自分は淋しいのかもしれない、孤独なのかもしれない、人を求めているのかもしれない‥ふとそんな事を考えてしまうことがある。そうしていると段々自分という存在の曖昧さに怖くなって、とてつもなく悲しくなって、声にならない悲鳴が涙にかわる。実際は孤独を感じるほど独りなんかじゃないのに…。私は欲張りだね。


「また泣いてんのか?」
「サソリィ‥」


不安になった時程痛い位に抱きしめて欲しくて、サソリの胸元にうずくまる。私の気持ちを察したのか否か、片腕でギュッと抱きしめ、もう片方の腕で赤ん坊をあやすように頭を撫でてくれた。


「俺にはわからねぇよ。」
「え?」
「人を望む気持ち、孤独を怖いと思う気持ち…どうしても俺には分からねぇ。」


独りの方が気ままで楽じゃねぇか?と呆れたように言う。


「分からなくないよ。」
「?」
「本当に分からない人は、こうして抱きしめてくれるどころか、気付くことすら出来ないよ。」


分からないと思うのは、カコに置き去りにしてきた気持ち、そうしないとやってられなかった気持ちだから‥なのかもしれないね。それでも、立ち上がって前に進んで、その結果今のサソリがいるなら、凄く強い人だと思う。‥そんなサソリだから、私の持つ弱さに気付いてくれたんだよね。


−−夕日がかった空が憂いを誘う秋、リーダーは暁にサソリという男を連れて来た。気怠そうな目や猫みたいな赤毛が印象的で…あの頃はまだ人の温もりがあった。


「おまえ、淋しそうに笑うんだな。」
「…え?」


サソリがこんな事を言ったのは、一人ずつ自己紹介を済ませ解散した後だった。無愛想な顔をしながら近づくものだから、思わず身を怯めてしまったっけ。でも…正直驚いた。こんな短時間で<私>を見切ったのはこの男が初めて。今まで何をしたって何故だか感情が伴わくて、だけど暗い顔ばかりもしていられないから程よくニコニコしてた。そんな日々に窮屈さや孤独を感じていたのは確かで、もちろん私の心の闇に気付く人なんていなかったのだけれど。


「にしても暁ってトコは胡散臭い奴ばかりだな。おまえが孤立するのもわかる気がする。」
「別に、孤立なんかして……ないハズです。ただ、私が勝手に淋しいと思ってしまうだけです。」
「…?なら、孤立してるんじゃねぇか。」
「いや、だから…」
「心とやらが仲間に寄り添えないら、孤独と思うなら、それは孤立している証拠だ。」


面倒臭そうな顔をして結構意味深長な事を考えてるんだなと思った。…でも間違ってはいない。偽の自分が周りに溶け込めていても、素の自分は‥自分からも孤立しているのかもしれない。


「‥ま、おまえは今日をもって独りじゃないがな。」
「…?」
「おまえは俺のモノになったんだからな。」


光栄に思えよ。そうしたり顔になるサソリに、驚きや呆れを越して笑いが込み上げた。心がじんわり温かくなった気がした。なんでかな?でも、この人の前では素直になりたいと思える。素の自分(ソレ)でも許してもらえるんじゃないかって思ってしまう。本当に、この男は変なヒトだ。


「サソリ。」
「あ?文句はいわせ‥」
「ありがとう。」


<私>に気付いてもらえる日が来るなんて思ってなかった。こんなの、嬉しすぎるよ。‥感極まって涙を流す私に、サソリは照れ臭そうに抱き寄せてくれたっけ。−−


あぁ、そうだ。あの日から私はサソリに依存してる。淡泊な性格の君には私は面倒で重荷だろうに、煙たい顔‥は沢山されてるけど、それでも突き放したりはしない。いつも隣にいてくれる。抱きしめてくれる。サソリは優しいね。


「おい。」
「んー?」
「いつまでそーしてるつもりだ?」


ハッと我に帰ると、私はまだサソリの胸の中でうずくまったままだった。‥そういえば、サソリの胸はもう、温もりを失ってしまったね。ソレは自分の価値観のためっていってたけど、本当は淋しがり屋な私のため、簡単にぽっくり逝ってしまわないため‥なんじゃないのかな?私は、もしかしたらサソリを不幸にしているのかもしれないね。


「ごめんね。」
「‥ナゼ?」
「私なんかが寄生して。」
「相変わらず馬鹿だな。」


そういってもっと強く、痛いくらいに抱きしめてくれた。


「ねぇ、サソリ?」
「ん?」
「独りの方が気楽だと思うのは、サソリが優しい証拠だよ?」
「おいおい、俺を買い被り過ぎじゃねぇか?」


ぶっきらぼうに見えるサソリは、自分でも気づかない程に沢山の優しさを振り撒くから、どうしたって甘えてしまう。自立出来ない。サソリが好きで好きで仕方ない。離れたくない。ずっと側にいて欲しい。





(私は重荷?)
(人形の俺に聞くのは野暮じゃねーか?)
(そーいう重さじゃなくて‥)
(‥チッ。おまえならいくらでも背負ってやら。)
(そういうこと言われると‥)





(どうしたって甘えたくなっちゃうよ。)





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